駆け寄ってみる。俯き気味で表情はわからない。ただし服装と橙色(以前は毛先につれ黒く色が落ちていたが今度は白くなっている)の無造作な髪から伸びる獣の耳ですぐに彼だとわかった。あとは尻尾がちゃんとついてるかが問題だ、個人的に。

「レイチェルさん!久しぶりね。元気にしてた?」
と笑顔で話しかけても反応はない。アリスの一歩前で立ち止まり顔を上げ、真っ赤な双眸はアリスを見据える。顔が記憶と一致する。あとは尻尾だけだ。
「もしかして…私のこと、忘れちゃったのかしら…?」
首を傾げる。そこそこ接点は多い方だとは思ったが、忘れたものは仕方ない。自分だってここに来るまではすっかり忘れていたのだから。
「きゃ…!!」
そんなこととか考えていた矢先だった。アリスの手首を掴んできたと思いきや地面に押し倒した。背中にまたも鈍い痛みが走り、衝撃に閉じた瞼をゆっくり開けば、虚ろげな目がまるで自分を通り越してもっと遠い所を見ているようだった。
「……な、なに…え?」
逆光が邪魔をする。薄暗く見えるのは確かに「見覚えのある顔」だった。でもそれは同時に嫌な記憶と結び付いて恐怖心を目覚めさせ、逃走本能が脳内を支配しようとしている最中レイチェルの右手はアリスの首もとに触れる。そしてその手は襟元を力任せに引っ張った。

「…うー…怖いですぅ。僕にはとうていあのような方のお相手は…。」
エヴェリンは木陰から情けない顔を覗かせる。そこで信じられない光景を目の当たりにした。なんとレイチェルが出会い頭にアリスを襲っていたのだ。咄嗟にまたも身を隠しかすかに震えていた。
「え?え!?なな、なんっ、何がどうなってるんですか!?」
吐息の混じった小声で呟く。木の後ろから少女の抗う声が聞こえるので嘘ではないことは単純明快だ。問題はなぜそうなったか。このままではダメだということもわかっている。

「どうしよう…どうしよう…ああ、怖い!僕なんかがしゃしゃり出た所で一体何が…!」
根っからの弱腰な性格が中々彼を動かしてくれない。エヴェリンはリュックをおろしおもむろに中身をまた取り出した。
「何か…何かこう…使えそうなもの…倒せそうなもの…!!」
彫刻刀が出てきたがおもわず投げ捨ててしまった。臆病なのである。周りはやはり使えそうにない日用品が散乱している。もはや終わりかと思われた。

「ビニール袋とかもう!!…ん?」
手に握ってるのはビニール袋、足元にある黒いポリ袋と紐。ゴミを持ち帰るのに用意したものだ。一番役に立たないだろう。
「………。」

エヴェリンは何を思ったか、砂利を手にいっぱい掴んではビニールに入れた。ひたすらそれをビニールいっぱいになるまで繰り返した。
「だ、ダメもとでも行かないと…。」
丸くなったビニールをポリ袋に入れて、紐を幾重にも巻いて持ち手の部分を作った。







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