「………………。」



しんと静まりかえり、空気が穏やかになる。
「……………。」
もしかしたらあの大きな穴に蛇の如く丸呑みされ、きっと今頃は…と考えると二度と目を開けたくない。何事もなかったような化け物を見てもしも諦めに終わろうとそこから果てしない絶望感と無力感に心身が支配されてしまうのだろう。

しかし、この静寂は変だ。

「…レン…さん…?」
目を手で覆いながら指と指の間からそっとアリスは様子を伺った。目の当たりにした物は、そのまま定位置で立っているシュトーレンの背中と花弁が後ろに反り全体的に色が落ちていきながらどんどん腐っていく化け物の姿だった。
「えっ…どうして?枯れて、いる?」
耳を塞いで踞っていたエヴェリンが体を起こし振り向く。
「ななな、何が起こってるんです!?」
それを聞かれてもアリスはおろか説明できる者はこの中にはいない。
「おい、なんだなんだ勝手に枯れたぞ?…あっ!取れた!」
間近で見ていたシュトーレンは尚更驚いたに違いない。だが、ずっと巻き付いていた邪魔な触手が取れてすっきりした気分になった。だが同時に人を独りぼっち支える力も失った化け物は右へ左へ傾く。
「うおっと、危ねっ…!よいしょ!」
近くの木の枝へ傾いたのを狙い軽々と飛び移りなんとか落下だけは避けた。麓からメキメキと音と共にヒビの入ったとこから折れていき、萎れきった化け物はゆっくりと倒れ地響きが周囲の木々を震えさせた。

「…うわあぁ。」
シュトーレンも絶句した。今登っている高さよりもでかい化け物は、変わり果てた姿でこちらを向いて倒れているのだから。
「ん?あれはなんだ?」
目を凝らして見てみると、化け物の後ろに誰かいた。屍を踏んづけ、道の方へ向かっていく。


「…助かったのよね?」
アリスは目を瞬きさせる。
「…そ、そうみたいです…ね。」
エヴェリンは頷く。二人ともまだ信じられず謎のままだった。
「助かったって、私達はともかくレンさんよ!さっきどっかに飛んでったのを見たわ。」
残念ながら葉に隠れてしまい何処に移ったのかわからない。
「レーンさーん!!」
「どど、どこですかー!?」
二人は声を大にして彼を呼んだ。すると早くも奥から足音がこっちに向かってくるのが聞こえる。
「降りるの早…ッ!」
エヴェリンが癖でツッコミを入れるそばでアリスが立ち上がりこっちこっちと手を振った。
「レンさ…あ、あれ?」
突然ぴたりと手を止めた。エヴェリンはせっせとリュックに中身を入れ始める。
「…レンさんじゃない?」
アリスの呟きに作業を休んで奥の方へと目を凝らす。
「どういうことで…えぇ!?」
「まあ、おかしなこと!」
二人が驚いたのも当然のこと。そこにいたのはもう一人の三月兎だった。

「レンさんがレイチェルさんになっちゃった!」
「そんなわけないでしょう!…ひ、ひえええぇ!!」
人を幽霊でも視たかのようにリュックを引きずりながら反対側の木の後ろに素早く隠れた。一方、アリスはまだ驚きを隠せないでいるが久々の再会に歓喜せずにはいられなかった。







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