「でもどうせなら会ってみてーよな。そのレイチェルつー奴。」
「きっと貴方とならすぐに仲良くなれるわ。」
長所の面では二人とも似通っている部分がある。世間知らずな所だって受け入れてくれるだろう(受け入れるというかそこもある意味では似ているのかもしれないが)。
「お?」
シュトーレンが突然足を止めた。
「どうしたの?レンさん…。」
「ポケットから落ちたぞ。」
拾い上げたのは自由の鍵だ。
「わああ僕としたことがなんてことを…!」
「首から提げたほうがいいんじゃないの?」
慌てて取りに戻るエヴェリンの背中に言葉を投げた。
「それじゃあ見えちゃいま…すっ?」
鍵を受け取ろうとした右手が空を切る。
「あ、あれ?」
そりゃあそうだ。落ちたものはすんなり返してくれると思っていたのだから。
「へぇ〜…高く売れそうだな。にんじん百個分ぐらいだな!」
くるりと背を向けて手のひらに乗せた物を好奇の目で眺める。豚に真珠かと思えば案外そうでもないみたいだがやはり比較する基準は自分の好物なわけで。
「やめてよレンさん!せっかくにんじん食べられるようになったのに…そんなたくさんのにんじんだなんて…また嫌いになっちゃうわ!」
「じゃあピーマン70個分だな。」
物の価値がわかっているのかいないのか疑わしい発言だ。
「ものすごく…微妙だわ!」
「返して下さ〜〜い〜〜!!!」
2センチ差の身長などほぼ同じで、更に奪い返そうとする度に軽々と身を翻す。これは運動神経と背負ってるリュックの重さが仇となっているのは見ても承知。
「…って、早く返しなさい!その鍵はとっても危ないらしいのよ!」
「らしいんじゃなくて危ないんです!」
むきになったエヴェリンは八つ当たりのように彼女に言う。
「あはは、おもしれー!」
一方のシュトーレンは必死に自分の手の中にある物を奪おうとしている彼を翻弄するのが楽しくて楽しくて仕方なかった。そんな彼だからこの鍵に対する危機感も薄い。
「まあ…こんな何もないところじゃあ何も起こらなさそうだけど…。」
アリス達がいる所はただの道。周りには毎度恒例、高い針葉樹が並んでいるが見通しはかなり良い。少し先に曲がり角があり、もっと遠くにはそこそそ大きな街だって見える。
「でもこのままじゃ埒があかないわ。」
まだ彼は遊び足りないみたいだが見ている方は飽き飽きだ。弄ばれてる方はたまったものではない。
「言葉で止めるしかないわね。早くしまわないと後ろの木が化け物になって襲っちゃうわよ!!」
ダメもとでアリスが切羽詰まった様子で叫ぶ。一瞬、シュトーレンの動きが鈍くなり真顔になる。
「…え?ほんとに?」
「ひええええ!!?」
今のうちがチャンス…と思いきやなんとエヴェリンが注意喚起に過敏になり悲鳴を上げて後退りをした。
「そんな狙ったように来るわけねーだろ。」
「…………………。」
アリスの顔から段々と血の気が引いていく。何かに怯え戦慄いているような、内股で体を強張らせ震えていた。
「あ…あ…う、うし…ろ…。」
彼女はゆっくりと真っ直ぐ指で差す。勿論、この流れで突然怯える方がおかしいのだ。
「あ?なになに…うし?牛でもいるのか?」
シュトーレンは迷わず、差された方、後ろを振り返った。

「あ…え?木…じゃねエよなコレは…。」
シュトーレンはただ呆然として上を見上げる。

木が化け物になったものではい。正確に、見たままで言えば花が化け物になったものである。いや、化け物になったのか元からそのようの姿なのかわからない。少なくともアリス達がここに到達したときには花すらも見当たらなかった。「それ」はだるまが起き上がる時のように地面からぐんと姿を現した。気配はない。例えるならば、長い茎と葉の付け根から太い枝が伸びた巨大なラフレシアといったところだ。時折根本から蠢いている。









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