「あっ、これ邪魔だわ。」
握ったままだったコールブランドを近くの茂みに突き立てる。
「………………。」
確かに邪魔になるとはいえ、伝説の剣がこのような扱いを受けているのを見たハーティーはなんとも複雑な心境だっただろう。若干顔がひきつっていた。アリスは、頭の中にあるイメージに基づいた構えをとる。



右拳を脇の下までぐっと引き、反対の手をまっすぐ伸ばす。いわゆる「正拳突き」と呼ばれる、空手などで使われる突き技の一種のものだ。しかし、それも素人がただの見よう見まねでやってるだけで正しい構えはできてない。右手の甲が上を向いたままなのだ。

「…ふぅ〜…。……でやああああっ!!」
(もはや自棄を起こした)アリスは気合いの大声を発しながら、腰を入れ、突きだした手を引き、視線の先にある樹の真ん中目掛けておもいっきり殴った。
せいぜいたいした結果は得られないと、それを見せつけてやろうと殴った。

しかし、どうだろう。

あんなに大きくがっしりした樹にヒビが入り、殴った箇所は反対側から千切れるように分離した。
「へ?嘘…って、えっ!?」
驚くのも束の間。メキメキと音を立てながらゆっくりとアリスの方へ倒れてくる。が、そこから落ちてくる場所を予想して避けるぐらいの時間は十分にあった。アリスの隣、巨木が地響きと土ぼこりを巻き上げながら倒れた。

「………………。」
と呆然と立ち尽くすアリス。
それもそうだ。殴った本人がこうなるとは考えてなかったのだから。
「天晴れじゃ!流石じゃ!」
耳をすませば能天気な子供の声が聞こえる。
「ワシが見込んだだけのことはあるのう!」
彼女の所へ駆け寄り、巨木を前にハーティーは瞳を輝かせ、えらく感心していた。

「アリスよ、お前…なにか武道でもたしなんでおるのか?」
「葡萄ならたしなんでます。」
ハーティーの問いを普通に返す。
「そうだったのか…。今時の娘は若くして武道を習うのか…。」
「…?食べるんじゃないの?」
納得のいったハーティーは腕を組み、頷く。アリスだけがまるで会話が噛み合っていないと感じて不思議そうに呟いた。
「まあそんなことよりも、じゃ。」
突如ハーティーがその場を離れる。アリスの視線が彼の背中を追いかける中、ハーティーは視界を遮るほどのやたら鬱蒼とした茂みを手で掻き分ける。アリスはそこで突っ立ったままだ。
「………まあ、こんなことだろうとは思ったがか。」
「何か」を確認したハーティーが戻ってくるとボーッと突っ立っているだけのアリスに真顔で告げた。
「アリス、軽く準備運動ぐらいはしといた方がよいぞ。…おっと、それはワシの方か。」
更に今度はいきなり膝を伸ばしたり曲げたりしだしたのだ。
「えーっと、ハーティーさん…。貴方の言っている意味がさっぱりわからないの。」
と言いつつも片腕をもう反対の腕で胸の前におさえつけながら伸ばすといった簡単なストレッチをしていた。彼は大体、重要な事柄は後回しに言う傾向がある。アリスはもう慣れていた。責めなどしない。

「いやいや、たいしたことはない。なに…崖と崖の間にかかっとる橋が壊れとっただけじゃ!」
と本当にたいしたことでもないかのように清々しい笑顔で言うのだが。反応はやはり想像通り。
「たいしたこと大ありじゃない!」
ストレッチを中断し大声で彼を責めた。
「あ、でも!なにもわざわざ向こうに行かなくても別の道とか…。」
そうだ、他の可能性がまだあるかもしれない。
「いや…奴の所へ行くなら他の道はない。むしろ誰かが行かせまいとわざと壊した可能性もある。」
そっちの可能性はあってほしくなかった、と項垂れるアリス。だがアリスは「ある物」を目の当たりにした途端、新たなる「可能性」を見出だした。








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