…………。

空間に大きな穴が現れ、そこから二人の人影が落ちると穴は何事もなかったように消えて無くなった。そして二人こと、アリスとハーティーは真っ逆さまに落下し、木の枝に幾度と体を打ち付けながら勢いよく茂みの中に突っ込んだ。
「…あいたたた…。」
両手にグッと力をいれ茂みから頭を出したアリスは、良いところのお嬢様とはとても言いにくいほど髪は無造作に跳ね、服もろとも葉や土埃にまみれ見るも無惨に汚れていた。とはいえ、一応身嗜みには気を付けるらしく髪を整え服についた汚れを何度も何度も手で払う。だが中々元のように綺麗にはならない。穴から落ちる経験にも慣れているので途中で諦めてしまった。
「もう落ちるのはこりごりだわ、全く…。落ちるのがオチ…なんちゃって…。」
「なんという仕打ちじゃ全く!」
一方、少し遅れてハーティーが茂みから抜け出す。彼もまた同じく、華やかな衣装が葉と土埃のせいで台無しになっていた。しかし彼が憤慨しているのはそれが理由ではなかった。
「あの高さから落ちて無事にすむと思っておるのか!?」
誰も思ってない。いくら運良く茂みがクッションの役割を果たしたとして5メートル弱の高さから落ちたら普通無事にだなんていられない。頭が下なら最悪首が折れてもおかしくないのだが。
「でも無事にすんだんだからいいじゃない。」
彼女みたいに世の不条理に慣れてしまえばなんとも感じなくなるのだろう。まだなにか言いたそうなしかめっ面でこちらを睨んでいるが、アリスに文句をたれたところで共感もされず軽くあしらわれそうだと悟った。
「…はぁ…そういうことにしておこう。」
やり場のない怒りはため息となって吐き出された。
「それにしても…ハーティーさん、ここはどこなの?ジャングルかしら。」
先程まで居た神秘的な空間から一変、木からは蔦、蔓が垂れ下がりあちこちに雑草が繁っている。まるで足の踏み場もないほど。その中に道がひとつ。地面がしっかりと踏み固められ、低木の小枝は折られ、 足下に生えている草は異様に短い。
「獣道じゃな。」
初めて耳にした単語にアリスは首を傾げた。
「けもの…みち?なあに、それ。」
しゃがみこんで地面を凝視していたハーティーが顔をあげる。
「なんじゃお前…獣道もわからんのか。獣道というのは…。」

その時だった。



「ギェエエエエエエエ…エエ…アアアァア…!!!」
地響きがするほどの重低音、否、獣の咆哮が谺する。其れは空気を、大地を震わせる。一体どこから吼えているのだろう。波紋のように広がり場所を特定できない。もっとよく耳を澄ませば不可能ではないのだが。
「きゃああ、鼓膜が…!!」
耳を澄ますことがまず不可能なのだ。耳を塞いでその場に座り込み、耐えるのがアリスにとっての精一杯だ。それでも尚止まぬ不協和音は鼓膜が貫かれそうな大音量で容赦なく二人を苦しめる。
「く…油断した。今のはただの威嚇だろう。」
ハーティーの方は回復が早かった。だんだん音が小さくなってきてようやくアリスも耳から手を離し立ち上がる。しかしどうも気分が悪い。
「アリス、早く剣を!」
だが一刻の猶予も許されない状況で体調が優れないなど言ってられない。茂みに真っ直ぐ突き刺さっていた伝説の剣「コールブランド」を軽々と引き抜く。
「よし!ではちょっとこっち来い。」
何を思い付いたのかハーティーがこちらへと手招きをする。








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