―――――………

そこからの記憶がとても曖昧だ。確かに、私達の探していた人物は見つかったがそのあとどうしたのかも覚えていない。気づいたら暗い暗い森の中で仰向けになって倒れていた。
「……………ここ、は?」
私はゆっくりと起き上がり、服についた枯れ葉を払う。傷ひとつなければ何処も痛くも痒くもない。ただ、とてつもない疲労感のせいで立っているのも辛かった。この疲労感の原因でさえ、全く見覚えがないのだ。
「…!?」
妙に固い突起した地面を踏む。いや、地面ではない。私の足元に光る物そそれはナイフだった。
「なんですの?一体…?」

辺りを見渡す。日の光もろくに届かない深い森。冷たい風が体を撫でる。私はなぜこんなところにいるのだろう、いつから記憶がないんだろう。次から次へと問いが蟠るが答えはかえってこない。



「…目覚めたか、時の精よ。」
――――………!?
気配を全く感じない。しかし、後ろには背の高い高貴な雰囲気を纏った青年が「まるで先程からいた」かのように樹に凭れこちらをじっと見つめている。第一印象では「聖人」といった言葉がその青年にはぴったりだ。
「…いつからそこに?貴方は私をご存じのようですけど私は…。」
青年は穏やかに微笑む。疑心暗鬼に駈られた心が何故か彼の笑顔で段々と薄れていった。
「名乗るほどの者ではないが、名乗るのを惜しむほどの者でもない。我は不死鳥の君にして古の賢者。」
たいそうなご身分みたいに聞こえるが、ご存じではなかった。だからこそなんだか胡散臭く感じる。怪訝そうな私の表情を見て察したのだろう。笑顔の中にも自嘲めいたものが見えた。
「まあ…所詮は他者が名付けたものにすぎぬ。」
「妖精界は排他的で閉塞的ですから外部の情報には疎いのですわ。」
事実、その通りなのだがこんなことを言ってもいいわけがましいだけで普通に自身の無礼を謝っておけばよかったと後悔した。だが、聖人というのは見た目だけではなく心の広さもさすがだった。
「はっはっは、気にすることはない。それより、無関係の者を巻き込み駒にするなど…。」
青年が突然、顔をしかめるが理由も彼の言っていな内容もわからなかったが、私の方を見ながら「無関係の者」と呟いた。もしかすると空白だった記憶を埋める手がかりを手に入れられるかもしれない。思わず青年の服を掴み問い詰めた。
「私、ここに来るまでの記憶がないんですの!貴方、なにか知っているんですか!?」
目を丸くし私を見下ろす。でも関係ない。こちらは藁にも縋りたい程必死なのだから。

「いや…お主が此処に居る理由は知らぬ。倒れていた異形の者の封印が解けたらお主がそこにおったのだが。」
意味がわからない。そもそも異形の者とは何だろう。封印はどういう意味なのだろうか。考えても、埒が明かない。じゃあどうしたらいいのかもわからない。
「あ、そうだ。お主の仲間らしき者が…。」
しまった、すっかり忘れていた。此処に来る前に行動を共にしていた仲間のことを。

「二人のうち一人は…×××××。」

思考が止まる。いや、考えてはいけない事ばかり頭に浮かんでくるのを阻止しようとしているのか。いなくなった仲間を探しに行った。そこにはもう一人違う仲間がいた。そのうちのどちからはもう…では、残る一人は?

「………ヘッキシュン!アレ!?」
聞いたことのある声が青年の凭れる樹の後ろで大きなくしゃみをした。まさか、自分のくしゃみに驚いたのか。
「此処はどこだ。俺は一体…。」
混乱しすぎて言葉が流暢になる謎の現象が彼に起こっている。まずは声をかけ、確かめないと。
「アルデンテですの?」
「何だそのパスタみたいな名前…ッテ、俺様カ!エッ、シャルムカ!?」
顔を覗かせたのは間違いなく、私の仲間の一人であるアルデンテだった。本当なら今すぐにでも抱きついてこの沸き上がる安堵、興奮、嬉しさを共有したいのに「探していた仲間がどうなったか」を先に知ってしまった為につい躊躇った。
「……………。」
なら逆に向こうから来そうなものだが、アルデンテは座ったまま。
「……眠イナ。足怪我シテルシ。」
後者はさておき、いかにも彼らしいなと思うと力が抜ける。

「二人とも起きたら、頼みたいことがあるのだが…。」
青年が私達の間に入る。アルデンテはすごく人相の悪い顔で睨み付けていたが無理もない。私が平然としているから何も言わないが。
「頼みたいこと?私達に出来ることなら。」
「俺様モ!?」
当然だ。青年は私と彼を交互に見てしばらく考え事をしてから、こう言った。


「今から向かう場所の門番をお主らに頼みたい。今日、そこにとある少女と連れが訪れることになるから――………。」


――――…―…。



そして、私達が別の人から新たな頼み事をされるのはまた別の話である。








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