「…大変です!ご主人様!」
メイドの少女、ルージュがだだっ広い空間を小走りで駆け回る。床はめずらしく、模様が全部うかがえるほど綺麗に片付いていた。
「ご主人様!!聞こえていますかー!?」
「煩わしい。聞こえている。」
この空間の全てを統べる主、ジョーカーは脚が回る椅子の上で膝を立てて座り好物のシュークリームを無表情で頬張っている。ルージュが慌てて側へ駆け寄って机に手をついた。
「ご主人様…先程、世界と世界の境目で次元の歪みが生じましたわ!」
たいそう狼狽しているがジョーカーは憮然としていた。
「面倒だな…どれ。」
渋々とゆっくり腰を上げ走馬鏡に手を触れる。すると、ただの巨大な鏡だけのものが靄のように、徐々に見知らぬ風景を映し出していく。



「嘘だろう?そんなはずは…!!」
映し出された光景を目の当たりに信じられないと言わんばかりに張り付いて凝視する。後ろで心配そうにルージュがこちらを見つめていた。
「ご主人様…。」
「…素晴らしい!!」
その声は歓喜に満ちていた。ルージュは驚きに思わず体を跳ね上がらせた。

「どうなされましたの!?」
おどおどしながら訊ねる。振り向いたジョーカーの顔は…新しい発見に心を躍らせる子供みたいに嬉しそうに、恍惚として満足げに笑っていた。
「偶然は必然…いや、これを奇跡…運命と言わずしてなんと呼ぼう!時代は違えど同じ私の築き上げたステージの上で始まり終えた異邦人が今!同じまたステージで出会った!!イレギュラー…私もかつて見たことない!!」
机に力強く両手をついて、身を乗り出す。

「これはいい見物だと思わないかね…?どうだい?私と一緒に鑑賞しようではないか!」
「…干渉はしません。」
ルージュはひきつりつつきっぱり断った。でもジョーカーは随分一人喜んでまたまた走馬鏡に張り付いた。

「アリス…シュトーレン…もう二度と此処を訪れることはないと思っていた。逢えて嬉しいよ…ふふふ…あは、あはははは…ゲホッ…。」


「何あれ。」
「いつも通りのご主人様ですわ。」
後からやってきたもう一人のメイドのノワールに笑顔でそう言った。



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