少女は懶い様子で嬉々とする二人を一瞥する。
「………そう、ですわね。そうなるといいですわ。」
あえて言い切らない所にどんな意味があるのか、全く気にもとめなかったが、ヘリオドールがあることにふと気付く。
「ん?じゃあさ…。」
あとの言葉を察した少女は気まずそうに目を横に逸らす。そう、ならば何故アリスとハーティーを行かせてしまったのかと聞かれたら一体どうごまかせばいいのだろうと考えていた。
「人間を倒せばいいって判断にはいかなかったんだね、君は。」
「そこかいっ!!」
予想をはるか大きく上回った質問に思わず酷い形相と崩壊した口調と大声でつっこんだ。咳払いをしてなんとか平然を取り繕う。
「あ…あのねぇ。私達は貴方を保…争いはまた争いを生む。それでは永遠に平和にはなりませんわよ。」
不本意ながら違うことを口から漏らしかけたが、いかにもな高説であっさりと流した。そして流された二人はうんうんと頷く。共感したのだった。
「そだな。喧嘩はよかねぇ。」
「ほんとにね、その通りだねいいこと言うよ…魔物でも君達みたいなのだっているんだから…。」
ヘリオドールの言葉に少女が「あー…。」とひきつった笑みを浮かべた。
「私達、その…俗に言う魔物とはまた違う部類で〜…まああのときはたまたま地下帝国にいてたまたま巻き添えくらったというか…。」
そっぽを向いてまるで言い訳のようにぼそぼそと呟いている様は見るからに怪しい。見兼ねた男性が腿に肘をつきようやくこちらを見下ろした。呆れ顔なのが自分達に向けられたものでないとわかってもどうも腑に落ちないが。
「俺様トコイツハ妖精族ダ。ダカラドッチノ敵デモ味方デモナイ。ジャバウォックニ個人的ナ恨ミハアルケドナ。」
「個人的な恨み?どゆことだ?」
ここでいう妖精族は魔物側にも人間界にも属さない完全なる中立な立場である。故にこちらから干渉はできないし、向こうから干渉したりなどしない。それに、アレグロは個人的という言葉が妙に気になった。対してヘリオドールは。
「fairy?」
とたずねた。
「really?みたいに聞かないでくださいまし。本当に妖精ですわ。」
少女までも呆れる始末だ。ヘリオドールになんの悪気はないが、これでアレグロの質問は揉み消されてしまった。
「言っておきますけど、頼まれてわざわざ門番だなんてめんどくさい仕事を引き受けてあげたんですわよ!」
そう言われてみれば男性と少女には大変お世話になった。しかし記憶の中での少女はやたらノっていたような気がしたことについては触れないであげた。
「なんだかんだ言っておいて、引き受けたんだ。優しいんだね。」
ヘリオドールは感心する。
「……………。」
男性は目を丸くして視線を少女に移す。
「……この殿方、相当の天然タラシですわね。」
少女は照れる素振りを見せるどころか引いていた。
「僕、病院で生まれたから天然じゃないよ?」
「じゃあおらは天然物だな。」
思わぬ返事に男性は吹き出し、少女は信じられないといわんばかりに目を見開き凝視したあとこめかみをおさえため息をついた。
「返す言葉もありませんわ。」

突然、男性が勢いよく後ろを振り返る。
「…鳥ノ鳴キ声ガ聞コエル。」
だが、他の面々の耳には届かなかった。そもそも鳥は見渡す限りどこにもいなかった。
「気のせいじゃないのかい?」
「おらも聞こえねぇ。」
「空耳ですわね。」
皆が皆次々に彼の言い分を否定する。男性はどうも納得がいかないようだが、それからというもの物音ひとつもしなくなった。
「見エネエカラ不思議ダッテイウノニ…。」
誰もが目をそらした時だった。そう遠くない距離から爆発音がした。地面どころか空気さえ震える衝撃と耳を劈く程の爆音に全員がに肝をつぶした。
「うわああっ、なんだあ!?」
反射的に耳を塞ぐヘリオドールを乗せたアレグロは全身の毛が逆立ちすぐさま音のした方に向かって前足を踏ん張り腰と尾を上げて警戒の態勢をとる。なんとか振り落とされることはなかった。
「国のど真ん中でも戦闘が?休む場もなにもないなあ!」
わざと大声で皮肉を叫ぶヘリオドールに少女がおずおずと聞く。
「びっくりした…な…なんで、戦闘だなんてわかるんですの?」
いつになく真剣に答えた。
「…火薬の臭いがする、微かに硫黄の臭いも。こんな町中で化学爆発するのには油や様々な原因があったとしても火薬はまず、考えられない。」
普段から兵器などに携わる事が比較的多いだけある。それに、遠くないとはいえ約百メートルも離れた所からここまで音が届くほどの爆発が、一般住宅の並ぶ町でそうそう起こるだろうか(だとしたらヘリオドールの嗅覚はとてつもなく優れているということになる)。
「行こう!何が起こってるか、確かめないと!」
ヘリオドールの掛け声に応じて男性はふわりと隣へ並ぶ。
「場所ガ特定デキタゾ。ツイテコイ。」
上空からは見晴らしが良く、煙と火柱がもうもうと空へのぼっていくのは目印としてはちょうどいい。

「事がうまくいきますように…!」
とヘリオドールは心の中で呟き、一行は爆発があった場所へと向かった。






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