男性が大きなあくびをしながら近くの木に背を凭れる。
「探シタノハ俺様ナンダカラ後ハオガヤレヨ。」
とだけ言うとこちらを見向きもしなくなった。少女はアリス達がまだ心の準備をしていないにも関わらず、指を鳴らした。
「それでは、アデュー!」
少女の一言と共にアリスとハーティーの足元にそれぞれが落ちるには十分な大きさの穴が突如として現れた。反射的にアレグロが距離をとる。

「きゃああああああ!!?」
「うわああああああ!!?」
二人は瞬く間に、穴に吸い込まれるように落ちていった。そして、何事もなかったかの如く穴は収縮し点となり最終的には消えてしまった。
「アリス…。」
あまりにも一瞬の出来事で驚く暇もなかったアレグロは先程までアリスやハーティーがいた場所をぐるぐると心配そうに歩き回る。ヘリオドールも若干、血の気が引いていた。
「…ぼ、僕の時はこうじゃなかったよね!?」
少女は素知らぬ顔をする。
「さあ。演出上の問題ですわ。」
全くもって意味がわならなかった。
「さあさあ、私達は私達にしか出来ないことをしますわよ。」
再び少女が指を鳴らすと今度はヘリオドールを吊し上げていた縄そのものが消え、地面に落下し全身を軽く打った。
「いでっ!!うぅ…痛い…ひどい…。」
たいしたダメージでもないのにのたうち回るヘリオドールに少女は容赦なく次の行動への指示を出した。
「ほら、早くそこの獣に乗るのですわ。アレグロ…んん、しっくりこない。白妙は私達のあとについてきてくださいませ。」
少女はどういう構造か服を貫通して背中から生えた羽をばたつかせ、宙に浮かぶ。それを見た男性も六枚の羽を交互に動かしながら渋々彼女の隣に並んだ。
「え…?どこいくだ?というより、おらは何のために…え?何でこいつと?」
聞きたいこと、謎が多すぎて何から聞いていいかすらわからない。出会った時は一方的な敵意を向けてきたヘリオドールとまさか手を組むになるとはとてもじゃないが想像していなかった。そんなヘリオドールはなんとか彼の背中によじ登ったようだ。
「細かい話は行きながら話しますわ。まずは…この空間を出なくては。」
手をかざすと、前方にまたも大きな穴が出現する。先程と同じく、別の空間と直接繋げた、所謂出入り口となるものを魔法で構築したのだが、アリス達みたいに落ちる心配はない。向こうに見えるのは石膏で出来たチェスのクイーンの像。相対の国のひとつのシンボルで中央都市に飾ってある。
「なんでまた中央都市なんだろう。」
そう言うものの微かに嫌な予感を覚えたヘリオドール。虫の知らせとはこういうことを言うのだろう。少女と男性に導かれ、アレグロとヘリオドールは遠く離れた同じ国の違う場所へと移動した。


―――――………

「ここは…?」
アレグロが住んでいた頃から数えきれないほどの年月を経て、相対の国は全くといっていいほどの変貌を遂げていた。少なくともこんな像はなかったし、建物をきずいている素材からして自分の知っているものとは全然違っていたのだ。
「相対の国の中央都市だよ。…いつもは賑やかだけどさすが、人なんていないね。」
少しの間離れていただけでこんなにも懐かしく感じるだなんて。だが、一般市民は皆安全な所へ避難しており見慣れた景色なのに違和感がしてならない。
「よくわかんねえ…それより、おらに何の用があるんだ?」
穴はもう閉じて、閑散とした街に異色の面々がぽつり。少女は空中で旋回した。
「私達は出来るだけ早くこの国で起こっている争いを止めたいのですわ。そのためには対立しているもの同士が共通の目的を持ち合い結束する、つまり共存している様を見せること…と、偉い人が仰ってましたわ。」
偉い人が誰かはさておき、アレグロが呼ばれた理由は大体理解したものの少女の説明だけでは不明瞭な点が多々あった。
「まず何をすればいいんだ?」
「それ僕も思った。あ、そうそう…いい加減君達の名前を…。」
少女は軽く咳払いをして話を続けた
「まあ早い話、人間と魔物の乱戦の中に突入して争いをとめるのですわ。」
唐突すぎる提案にアレグロはやはり不思議そうに首をかしげるのみ。ヘリオドールは身を乗り出し抗議した。
「もっと策でもあるのかと思いきや随分突飛だね!?」
間に何やら作戦を挟むわけでもなく、間に割り込めというのはとても無謀かつ無茶な話である。
「貴方達の実力なら何の造作もないことでしょう?」
素直に喜んでいいものかわからない。ヘリオドールの照れ笑いもどこかぎこちないものだった。
「そ、そういう問題でもないんじゃあないかな〜なんて…。」
街のシンボルのてっぺんに腰を掛けた男性が明後日の方向を眺めながら言う。
「魔物トヤラ、アイツラニハカラクリガアル。」
アレグロと、国のシンボルを軽くあしらわれて少し複雑な思いを抱えたヘリオドールが怪訝な顔で見上げる。男性は視線を感じてもそちらを向かない。
「ジャバウォックハ、自分ノ力ノ一部ヲ魔物ニ与エテイル。雑魚ノクセニ手コズッタ…ソンナコト無カッタカ?」
だが、魔物について詳しくないヘリオドールにとって彼の言う雑魚かなど区別のしようがなかった。
「うーん…まあ、そうだったような…そうでもなかったような。」
実のところ行動を共にしていた仲間のカルセドニーが積極的にいともたやすく倒してくれたものだから実感が薄かった…とは、男性の前では色々な意味で言えなかった。
「おらは…特にかわんねえけど。」
「テメーハ十分強イカラダロ。」
男性の言葉にアレグロは内心嬉しく感じた。対して男性はいつにもなく真剣な眼差しで遠くを見据える。
「魔物ヲ倒スト、与エラレタ力ハ全テジャバウォックノ元ヘ戻ル。ソレガカラクリダ。」
「…………!!」
ヘリオドールの表情が一瞬にして強張り、アレグロもいままで知らない真実を突き付けられ戦慄を覚える。特にヘリオドールは、自分が倒すことによって結果的にジャバウォックの力を増強させてしまっていたのだ。
「だって…でも、あいつらは人を襲うし僕は人の立場である以上は…あ、ごめんね一部例外はいるけども。」
慌ててフォローするもアレグロは俯いて首を横に振った。
「…気にすることはねぇ。こっちもお前らとやってることは同じだ。」
ジレンマに苛まれているのはお互い様のようだ。
「つまり…だから、争いを止めることに繋がるの?魔物と人間の戦意を失わせてジャバウォックがパワーアップするのを止めて…?まさか!ジャバウォックの暴走も止めれるってこと!?」
勝手に結果を導くヘリオドール。アレグロが再び顔をあげる。表情の変化はないが、きっと嬉しいに違いない。戦いの終結が二人の望みなのだから。







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