「お久しゅうございますわ。まさか、本当に抜いてしまうだなんて…。貴方が選ばれし者だったのですわね。」
見た目のわりに少女の仕種や振る舞いはとても優雅で上品だった。 だが、アリスは手が塞いでいるのでお辞儀ができない。
「お久しぶり…ですって?失礼ですけれど私は真ん中の方以外にはお会いしたことがありませんわ。」
どうも腑に落ちない様子の訳は、初めて会った人に以前にも会ったみたいな言い方をされたからだ。元にいた世界で会っていれば逆に忘れることはなかっただろう。
「むう…お主らにもう用はないのじゃ。見送りにでも来てくれたのか?」
ハーティーが唯一顔見知りだそうだが、明らかにアリスの方に視線を向け話している。
「ええ、まあ。アリス、私はとある洞窟にて貴方に謎かけをしましたわ。覚えていらっしゃらないかしら。」
そう言われてみると、彼女の言う洞窟で散々な目に合わされたのを思い出すも、更なる疑問が増えるばかり。
「…お前の声…聞き覚えあると思ったら…!」
アレグロは気付いた。アリスは声の記憶に集中し想起する。やがて、一致した。
「あー!あのコウモリ声がそっくり!でも…声は一致しても姿が一致しないのだけど…。」
さっきから黙りだった男性が口を開く。
「アレハ仮ノ姿ダ。ヤレヤレアノ魔女…。
「私の台詞をとらないでくださらない?」
少女が睨む。たった一言しか喋っていないのにかかわいそうとアリスは同情した(しかも男性の方はカルセドニーの報復を食らってうっかり死んだものかと思っていた)。でもこれで辻褄は合う。
「へぇ〜…。あ、聞きたいことは山ほどあるんだけどまずはお名前を…。」
対し少女はやや早口で切り上げた。
「山ほどあるのなら遠慮いたしますわ。というより、私達の事はこの際どうでもいいですの。」
丁寧な口調や仕草なだけで言動はかなり慇懃無礼だ。そして少女は言いはなった。

「おとなしくそいつを渡しなさい!さもなくばこいつの命はないぞ!!」
台詞もない男性が無理矢理「そーだそーだ!」と棒読みで参加する。
「えぇえ!僕人質なの!?聞いてないよ!」
ヘリオドールは自分が置かれている立場や状況を一切把握してなかったらしい。
「殺される!なんでか知らないけど裏切られた!!うわああ!」
驚き青ざめ必死に抵抗する。手足の自由が効かないから宙ぶらりんでもがくと本当に芋虫に見える。
「ウルセェ、燃ヤスゾ!」
癪に障った男性がヘリオドールの鳩尾を横から蹴る。少女は避けようとせずあえて彼を受け止めることによって衝撃は緩和せず痛みも倍増した。
「ぐへっ!?アリス…ほんとに殺される!!」
現在進行形で集団リンチが行われている。芋虫などではない。もはやサンドバッグだ。とりあえずおとなしくしてほしいとアリスは思った。
「燃やされる前にちょっと黙って!!」
アリスが一喝するとヘリオドールと男性の動きもとまる。交渉に出るのはハーティーだ。
「お主らがどういうつもりかは見当もつかぬが…。」
三人は少女の目的がコールブランドだと考えている。アリスは論外で、一番詳しいアレグロも話し合いには向いていない。最低限の知識、使用経験もある上で冷静に話し合いが出
来るのはハーティーぐらいなものだからだ。
「先程己が言っていたことからして、この剣がどのような代物かご存知のようじゃな。ならわかるじゃろう。いくらお主がどんな理由でこいつを所望しても意味がない…。」
突然、少女が左手を突きだした。意図が読めないが、話を中断された気がしてハーティーは途中で口を閉じる。

「ノンノン…剣がほしいとは一言もいってませんわ。」
確かに、アリス達が勝手に決めつけて話が進んでいた。 
「何が欲しいとも言っていないわね。」
「けんど他に何を欲しがるようなもんがあるんだ?」
アリスとアレグロが議論する中、ハーティーがある結論に辿り着く。
「まさか…奴等が欲しいのは…ワシか!?」
すかさず少女は否定の意味も兼ねて真顔で返した。
「私達がほしいのは…。あなたですわ!」
なんということなのだろう。少女がそう叫びながら指を差した先にはいたのはアレグロだった。
「なんじゃと…なぜこいつなのか?正気か!?」
一歩後ずさり大袈裟な反応を示すハーティーと口を開けたままきょとんとしているアリス。
「少なくとも貴方よりは正気ですわ。」
再び少女は「彼」に話しかける。
「…………?」
アレグロは黙って首を傾げる。これが人間の体格のいい大男がやっているのだと想像すると滑稽。本人は無意識で無自覚なのだろう、ものすごくあざとい。
「何故貴方が必要なのか…は、道中で説明いたしますわ。そこの二人もお急ぎなのでしょう?…やはり私達には止められそうに…。」
最後は小声でぼそぼそと呟いたので皆には聞こえてはいなかった。
「そりゃあ急いでおるよ!だが…この聖剣で!かの邪知暴虐の魔王を倒すには!「足」となるものが必要なのじゃ!」
今度はハーティーがアレグロを指差した。
「ここからまだ距離はある。ワシらの足ではどれだけかかるか…それに余分な体力を消費するわけには…。」
「落ち着いて!そんなことぐらいわかっていますわ!」
息継ぎもせず矢継ぎ早に責め立てるハーティーに少女はわざとらしく両手で耳を押さえた。
「エーゴホン。コイツガ魔王様ガイルトコロマデ送リ飛バシテヤルッテヨ。」
こちらもまたわざとらしく咳払いをした男性が少女を一瞥する。アリスとハーティーはお互いの顔を向き合わせ、もう一度男性を疑いの目で睨んだ。
「俺様ニ喧嘩売ッテルノカ?上等ダ。」
少女が呆れ顔で腕で制止する。
「おだまり下等生物。底知れない魔力が集中しているある一ヶ所を特定したら、中心部に「ソレ」がいましたの。」
アリスがまたも疑問をぶつける。
「送り飛ばしてって、どういうこと?」
少女は腕を組み、意味深な笑みを浮かべた。ハーティーが途端にそわそわし始める。
「まっ…待てよ?まだアレが終わってないのだが…。」
「あれって?」
それだのあれだの言葉が続いてアリスが軽く混乱した。







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