躊躇っている場合ではない。しかし、いざという時になってアリスは色々考えこんでしまう。例えば「ここまで来ておいて、抜けなかったらどうしよう」、「抜くことが出来たら自分はどうなるのだろう」と結果がどちらに転んでも不安は過る。抜いた者しか使えない等と言われてもゲームではあるまいし、小柄な体に馬鹿力を秘めた都合のいい設定を兼ね揃えてもいない。

むしろ、ここで抜けなかったら訳のわからない戦いに自らを巻き込まずに済むのだ。この世界がどうなろうと別世界から来たアリスには関係がない。だが、もしここから逃げられず巻き添えを喰らうのではないか?自業自得とはいえあんまりではないか。

「アリス…なんじゃ、もう覚悟ができたのか。」
なんだかんだでアリスの手はしっかりと柄を掴んでいた。連れてきた張本人であるハーティーも些か驚く。
「覚悟なんかろくにできてないわよ。私はこの剣を抜くことが出来るとも思ってないわ。」
「……………。」
他の二名はそれ以上は何も言わなかった。
「………大丈夫よ、アリス。事がトントン拍子に運びすぎだわ。うん…大丈夫。」
本当は怖くて仕方なかった。可哀想に。何が悲しくてこんな目に合わなければならないのだろう。遅すぎる後悔は溜め息となって外に出される。

「…時間は待ってくれないわ。」
確かにその通りである。アリスは両手でしっかりと握りしめ、剣を引っ張った。
「………………!!」
二人もその瞬間を目の当たりにする。ここにひとりの救世主が生まれる、まさしく伝承の中の一頁だ。



「あら?」
不思議そうなアリスの表情とは裏腹に、聖剣と謳われたコールブランドは彼女の手中にあった。
「…うおおおおおやったぞおおぉ!!ほら見たことか!ワシの言った通りではないか、なあ!?」
本人以上に舞い上がるハーティーはアリスの肩を強く叩きながらアレグロの方を振り向く。すっかり有頂天だ。
「信じられん…。」
そう言うアレグロも尻尾を振っている。さあ、この調子だと二人とも本当に舞い上がるどころか舞い踊ってしまうのではなかろうか。
「随分あっさり抜けたから…。」
アリスはそれどころではない。ここからが本番だというのに。
「どうしよう…。」
剣そのものは非力な少女でも軽々と持ち上げられる程度に軽い。が、アリスには違う意味でとても重く感じた。
考えるほど、迷うほどに気が滅入る。うかうか喜びに浸っていられない。そもそも何を喜んでいいのかもさっぱりわからない。
「喜びの舞いじゃ!!」
そばから聞こえる嬉々とした声。ハーティーは本気で踊るつもりか。
「ちょっと!そんなことやってる場合じゃ…!」
苛立ちを露にアリスが怒鳴りたてようとしたその時。


「をーほっほっほっほ!!!」

どこかで聞いたことのあるようなないような声が空間に響き、こだました。
「いきなりどうしたのじゃアリス。」
「私じゃないわよ?」
そこまでアリスは情緒不安定ではない。
「ならアレグロか?」
無言で首を横に振る。少しは考えてから言葉をしゃべって欲しいものだとアリスはうんざりした。にしても、声の主は見当たらない。
「あそこからどうも声がするわね…。」
神経を研ぎ澄ませながら、アリスが指を差した方向には木があるだけだ。
そこでハーティーは冗談なのか本気なのか、脅しに出た。
「隠れておるのかもしれぬ。出てこんのならこやつが樹ごとぶった斬るぞ!はっはっは!」
すると。またもや誰かの声がしてから。
「切り捨て御免、ですわ!」
なんとアリス達の目の前の景色が崩落した、地面へ。木の枝に全く同じ景色が模写した布をかけることでカモフラージュしていたというのだ。一行はそれだけでも衝撃を受けたのに更に驚くべき光景を目の当たりにする。
「…問おう。ヘリオドール。貴様、なにをしておるのじゃ…。」
一番驚愕したのはおそらくハーティーだろう。さっきまでの威勢はどこへやら、呆れの混じったなんとも言えない複雑な表情で見つめていた。

魔物と戦っているはずの兵士、ヘリオドールが何故この様なところにいるのかが大きな疑問点だが、加えて彼は遥か高い木の枝からロープで吊るされていた。十数回にも巻かれがんじがらめに縛られた姿は芋虫の様。そして、両隣には見ず知らずの人物がいた。

一人は紫の長い髪を二つに結び、はしごレースのついた赤いワンピースを着た少女だ。ただ、ワンピースの前が開いており、下にはレオタードのような物を身に纏っているのが奇抜である。
もう一人は淡い紫の長い髪と褐色肌の男性だが一見してサンタと思わせるような赤と白の帽子、ローブを着ているがこちらはこちらで股下が深くルーズなズボンを肩紐で吊っていて、上半身は露出している。奇抜だ。
とことん奇抜なのに極めつけは二人とも「羽」があること。もしかしたら、人間ではないのかも。








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