――――――………

アリス達は穴が繋いだ先の空間へ辿り着いた。アレグロは、走った勢いが急には止めることができずに数歩ほど余分に進んでしまう。
「………わぁ〜…すごい…。」
「こげなとこだったんだな…。」
ハーティーを除く二人は目に写る光景に瞠目せざるをえなかった。 
「ワシは一回見てもう飽きたがな。」
軽々と飛び降りたハーティーの手を取ってやっとこさ地に足をついたアリスは目を丸くし口を開けてゆっくりとした足取りで歩く。一秒に一歩の速さで。きっと同じ顔をしているだろう、アレグロも彼女等のあとをついていく。

そこは一言で表すなら、神殿。そこに広がる景色の一つ一つが現実離れしており、神秘的というよりもはや別世界だった。

青白い満月が照らす群青の空が、澄んだ水面にそのまま映る。まるで海のようなところに、白地に美麗な斑紋模様をあらわした大理石の道が浮かんでいた。だが、底に支える物があるのか、全く揺れやしない。
そんな石甃の道を挟み、白亜の円柱が並んでいる。
「これは…なに?」
円柱には青い蔦と葉が巻き付いている。元いた世界では見たこともない植物にアリスは早速興味津々だ。
「名前は知らんが、そいつは毒があるぞ。」
「ひいッ!?」
ハーティーの注意に、思わず触れようと手を伸ばしたアリスは慌てて引っ込めた。
「ハッハッハ、触っただけではどうてことない。なんなら食ってみろ、数分であの世行きじゃ。」
勿論、彼女が絶対に口にしないことを前提にしたハーティーの冗談だ。アリスの顔はやや青ざめていたが。
「死ぬとわかってて食べるわけないでしょう!?」
黄色や赤は警戒色とされるが、寒色は食欲を減らす効果があると聞いたことがあるが、もとより蔦を食べる習慣がなかった。
「…………………。」
蔦に鼻先を近づけていたアレグロはすごすごと離れる。ここに例外がいたみたいだ。
「さて、はようコールブランドを引っこ抜くぞ。」
ハーティーが先頭をきって歩く。奥には階段、その上に埃をかぶった石碑があった。周りの樹も葉だけが青く、微かに光っている。
「これを私の方の世界に持って帰ったらさぞかし注目の的でしょうね。毒物がなんの役に立つかはわからないけど、そんなの関係ないわ。あ、でも…。」
アリスの癖である独り言が始まった。
「毒のある植物ってことで図鑑や本にも間違いなく載るわ。なに科なに目…なに目なに科かしら?何々?生えてる場所ですって?どう説明したらいいの?異世界…だなんてさすがの私でも言えないわよ。注目どころか、心配されちゃ…わっ!?」
階段に上がる前の平たい所でアリスは足を捻る…が、なんとか持ちこたえた。そのかわり。
「…小娘よ、大丈夫か?誰と話しておった?」
ハーティーが困った顔で振り返る。異世界の者に心配された。足よりも、頭の中を。
「あはは…癖なの。ごめんなさい。」
笑みを繕い場を誤魔化す。
「青はこの国では「神聖」の象徴とされておりのじゃ。」
突然、話を切り出した。
「故に此処も神聖な場ということじゃろう。ワシは青より金が好きじゃが…。」
「金色は何の象徴なの?」
アリスが興味深そうにたずねるとハーティーは事も無げに答えた。
「金色って、派手であろう?ワシは目立つのが大好きじゃ。」
呆れて二の句が継げなかった。階段をゆっくりとあがる。
「私、青色が好き。海も空も、青くて綺麗だし…そう、綺麗な青が好きなの。」
なぜかハーティーは気難しそうに首を横に振った。かの賢者にはあまり聞かせたくない言葉だ。
「やれやれ、ワシだから何も言わぬが…。よかったのう。好きな色が青か、お主は青がよく似合っておる。」
どうやら心底嬉しかったようだ。
「ほんとに!?」
「ああ。金でも赤でも白でもない…青色がお似合いじゃ。」
嬉しいはずなのだが素直に喜べなかった。
「あら…そう。あっ、神聖を象徴とする色が青なら、赤と白は?」
そうだ。相対の国を統べる二人は赤、白の女王と呼ばれているのだから気になったのだ。

「赤は……………トマトじゃ。」
勿体振った割りにとてつもなくしょうもない答えが返ってきた。
「と、トマトの女王?白は?」
可笑しかったのか、笑いを堪えながらアリスは聞き返す。
「白は…牛乳…ではない、羊毛じゃ。」
これにはもう我慢ができなかった。
「まあおかしい!」
後ろの一匹を除いた人間二人の話が変な方に盛り上がる。今ごろどこかの誰かさんがくしゃみでもしているだろう。

「やだ、いつのまに上がりきったのかしら。」
一行はもう石碑の前まで進んでいた。 刺さった剣に派手な装飾はなく、至ってシンプルだ。ただ、刀身がとにかく広い。ゲームの世界でお目にかかることがあるような、この細い柄でどう支えてあるんだといいたくなる程に幅があった。これでは刃ではない。板だ。







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