でも、アリスにはアリスで一番気がかりな事がまだ残っていた。
「あっ、ねえ…最初に戻るけど。なんで私なの?私が選ばれなかったら意味ないじゃない。」
この中にいる誰かが剣の所有者と認められなければ全てが水の泡なのだ。今までも、今もそう。無駄になってしまう。
「いくら力が必要って言われても…。」
課された責任があまりにもはやくも落胆するアリス以上にハーティーは絶対の自信があった。
「お前は選ばれる。ワシがそう言うのだから大船に乗ったつもりでいるといい。」
残念、彼が言った慣用句の意味をアリスは知らなかった。
「…根拠が全く無いわけではないぞ。アリスよ、この世界でのお前の活躍をワシが知らぬとでも思うか?」
しかし、当の本人が知らなかった。
「かの暴君、人よんで「ハートの女王」を倒したこと。更にその前の女王が言うゲームでのお主の抗いよう。」

――――――…!!

鮮明に焼き付いていた、思い出したくもない赤色を帯びた記憶が蘇る。かつてアリスが以前にもこの世界を訪れ、一国を救ったことは当然隣の国にも広まり、彼女がいなくなったあとは伝説と化して世界中を一人歩きしていったのだ。救世主だと崇める皆に誤解を与えたまま。
「わ…私は…違うの。…あれは、私の意思じゃない。」
声が震える。どれも自覚はある。だがほとんどの民衆はアリス己の正義感により手を掛けたのだと思い込んでいる。誰が「誰かに操られていた」と考えているやら。
「私じゃない…私だけど…。私は…。」
譫言のように呟くアリス。もう少しで腕から力が抜けてしまいそうだ。

「はっはっは、そうじゃろう。ワシに伝えたフィッ…た、黄昏の賢者は見抜いておった。それにお主が進んでやるとは思ってもない。」
ハーティーが一瞬口を滑らせてしまったが、アリスは話の後の方しか聞いていなかった。
「お主が秘めておる力は、お主自身の意志で使われてこそ真価を発揮する。にしても、本当になあ…アリスよ。生まれる世界を間違えたのではないか?」
多少気が楽になったが、答えるのに困る問いにアリスは怪訝な顔を浮かべる。
「…何をいっているかわからないわ。あ…そうだ、私まだ気になっていたことがあるんだけど忘れちゃった。」


「てぇへんだ!行き止まりだよ!!」
走りながらアレグロは二人に大声で呼び掛けた。視界も悪くランプは不親切にも道を一度に照らしてくれないのでしばらく気付かなかったが、なんと、奥に見えるただの壁がどっしりと道を塞いでいた。
「まあ大変!別の道を行きましょう!」
「いや、そのまま真っ直ぐ行けぃ!!」
迂回しようとアリスの案に従うどころか、とてつもない暴挙を言い出した。
「ハーティーさん、正気なの!?」
これには一番の被害を被るアレグロも黙っちゃいない。止まれというならまだしも、突撃しろと彼はほざくのだ。
「行き止まりば突っ込め言うか!?」
僅かに走る速度を下げる。どうにもならない無謀に従うのはさすがに馬鹿馬鹿しい…いや、単に怖いだけだろうが。
「そう案ずるでない。これはワシが作った隠し通路じゃからな。」
ハーティーの言葉に呼応するかのように、壁に黒く大きな穴が現れた。その先は見えない。
「まあ!なんというデジャヴだこと!」
なんだか同じ体験を前にした気がしたアリス。別に驚くほど不思議ではなかった。
「ありゃまるで「ぶらっくほーる」だべ。」
一方で驚きを隠せないのはアレグロ。先程の聖剣の話といい、見た目とは裏腹に博識である。
「ワシを阻むものなどこの世にないのじゃ!それ、進めー!!」
ハーティーは威勢のいい声を張り上げ、二人と一匹は行き止まりだった場所へ突き進み穴へと吸い込まれていった。






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