「あの時はただの流離いの剣士だった。世界が滅亡の危機に瀕している時、ワシにも出来ることはなかろうか…そんな矢先に耳にしたのは聖剣コールブランドが見つかったという話じゃ。」
今度は珍しくアリスが黙って聞き入っている。待ってみても横槍がないので再び話を続けた。
「こいつがあれば世界を救える…とは思えなかったが皆は藁にも縋る程に追い詰められていたのだ。とはいえその場におる者の誰一人として剣を抜くことが叶わなかった。ワシだって当然…。」
「つまり選ばれたってことでしょ?」
無駄な語りが多くなんとも興醒めなお話に飽きたアリスは、早いところ結論を先に言って無理矢理終わらせた。
「先人の言うことは最後まで聞かんか、馬鹿者。」
先人と言われても今の彼では説得力の欠片もない。対しアリスは子供そのものだから言いたい事はなんでも口にする。
「だってあなたのお話、校長先生みたいに長いんですもの。私は昔話じゃなくて理由をききたいわ。」
世界観の違い故に知らない単語は無視して軽く茶化した。
「理由?はて…なんの問いにたいしての理由を話せばよいのかの?」
いつもならすぐに質問を切り出すアリスも、間に長ったらしい話が挟み込んだせいて最初に訊ねたことを忘れてしまっていた。それでもなにかしら返さなければいけないと考えたどうでもいい質問をぶつけた。
「えっと………長生きの秘訣は?」
自分に興味を持ったのだと、ハーティーは満更でもなかった。
「生卵とトカゲの薬草焼き、適度な運動じゃ。」
せっかく自慢したのに、聞いた者に引かれるしまつだ。
「やだ、共食いじゃない!」
引かれる理由も理不尽である。
「何を言うか!ああなる前からずっと続けておったわい!はっ…じゃからワシはあんな姿にって、左!左じゃー!!」
もうなにがなんだか無茶苦茶だ。次の曲がり角に差し掛かる寸前で慌てて腕を振りながら指示した。
「…しかし、もうそろそろ着いてもよい頃じゃ…。」
すると、ずっと黙ったままのアレグロが口を開いた。
「聖剣には「常に新しい力を欲する」という話もあるんだな。」
そう言う彼も常に走り続けているのに息のひとつも上がってない。感心しているアリスにたいし魔物の並外れた体力は前々から熟知しているハーティーは深く頷いた。
「そうじゃ…アリス。そういうことじゃ。コールブランドを元の場所に戻したら、例え所有者であっても再び持つことは出来んのじゃ。」
だがアリスはとりわけ驚くことはなかった。
「あんな姿じゃあ、無理に決まってるわ。」
脳裏に過るのは出会った当時のハーティーの変わり果てた姿。様々な壁があるが、まず剣の柄まで届かない。どう考えてもあれでは不可能だ。
「いやまあそうであるが…。」
「なんで戻しちゃったのよ。」
アリスの質問攻めにハーティーは開き直った。
「ワシが持つにはちと荷が重いし、あとから知ったもんはしょうがないじゃろ〜!」
若返ったに伴い精神年齢も多少低くなったのではなかろうかと、二人の会話から犇々と感じたアレグロはとても冷静だった。
「選ばれた奴はなんらかの力をそれなりに秘めてるってぇ。聖剣はしょゆうしゃの力を自分の力と合わせて初めて威力を発揮すんだ。」
ここまで詳しいのは予想外で、ハーティーは肝を潰す。
「な、なな…なんでお前のような化物がそこまで知っておるのじゃ!?」
ハーティーの混乱する様が可笑しかったアレグロはわざと適当に返した。
「おらの仲間ならみんな知ってるべ。」
勿論、口から出任せの言葉にすぎないがハーティーは真剣に捉えてしまった。

「…なんとへんてこりんな剣だこと。」
今までの長いくだりは何だったのか。アリスの気になっていた謎は殆どアレグロの独り言によって解決され、感想がこの一言である。「プレイヤーの力を吸収する」などのトリッキーな物、ゲームでも見たことがなかった(そもそもゲームで遊ぶこと自体少ないのだが)。
「むむ…納得いかんが。力を吸収するかあ…だからワシはあのような姿になったとでも?」
一瞬アリスの顔が凍りつく。
「そげなことはねぇ。剣から手を離すと力は元に戻るだ。おめぇがどんだけ暴れたか知らねえけど、まずありえん。」
が、彼の言葉により表情が緩んだ。解凍された冷凍食品みたいに。ハーティーの疑問は増えるばかりだが。







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