シュトーレンは突飛な指示に耳を疑った。
「た、たいほう?待てよ…そんなの俺どうやって…!」
火薬の扱いも知るわけがない。出来る事がないからと言い代わりに出来ないことを任せられても結局何も出来ないから全く意味がい。
「貴方ならなんとか出来ますよ。」
狼狽えるシュトーレンをよそにジャックは剣を地面に突き立て、柄の頭に左手を乗せる。そこから幾数の赤い閃光が遠く遠く伸びて敵の足元へ届くと魔方陣が現れる。コロナがふと目で先を追うと火柱があちらこちらで突如噴き上がり、燃え盛る炎が巨人諸共丸呑みした。叫びながら魔物は火だるまになって悶え、藻掻く。まるで踊っているようだ。
「これで視界と大分よくなったのではないですかねぇ。」
もし本当にそのためだけに燃やされたとしたらいくら敵とはいえ可哀想のである。が、同胞ですら哀れみを向ける者はいない。
「つくづく有り難いわ。」
コロナも効果が倍になった魔法を駆使して戦況を有利に導いた。シュトーレンの負った怪我も治癒し、体力も十分なまでに回復しているのは彼女の魔法によるものである。
「まずは敵の陣形を崩しましょう。隙が出来たら俺の指示通り動いてくださいね。」
三人は背中合わせに寄って遠くから動きを止めて尚も向かってくる少数の敵を順調に倒す。近接戦が皆不利であるため敵に突っ込むのは単なる自殺行為だ。

「……………。」
しかし、まだシュトーレンには迷いや戸惑いがあった。そのせいかどうも足が動いてくれない。
「くよくよしてんじゃないわよ。言いたいことは言うくせにそんなキャラだったの?」
だが彼の耳に入らなかった。
「…私の占いは当たるんだから。大丈夫よ。」
ようやく彼女が自分に話しかけてくるのに気づいたが周囲の物音に掻き消されてしまう。
「悪い、聞こえなかった。なんて言った?」
聞き返したが、すぐにそっぽを向かれ待ってみても言葉は返ってこなかった。
「出来ないんじゃない、やるしかないんです。守るべき者がいる貴方なら、尚更でしょう?」
だが、ジャックの一言で気持ちは切り替わった。ナイフの柄を握り締める。

自分が今、出来ること。

守りたいものを守るために出来ることがあるなら、 足枷となる感情を振り払い、全ての力を使い果たす。迷ったり戸惑ったり、なんてくだらないことを考えていたのだろう。

「………やってやるよ、絶対に!」
暴れ狂い突っ込んでくる異形にシュトーレンは慣れない切っ先を向ける。仮初めの夜で偶然であった三人の抗いはしばらく続いたのだった。


――――――――………


場所は変わり、相対の国中枢、「双璧の鏡城」にて。

「なんだァ…どうなってやがる!!」
アドルフや監視役の兵士を含みその場に居る者が暗くなった部屋の中で昼間に訪れた夜に混乱を来した。かろうじて(ほぼ脅して)皆を落ち着かせたものの不安は拭えない。すると、廊下から数人の足音が静かな部屋に鳴り響く。皆が目を凝らすと、兵士が二人がかりで何やら大きなダンボール箱をせっせと運んでやってきたのが見えた。
「よいしょ…んっしょ…はぁーしんど。アドルフ様、フィエール様のアトリエから大量のランタンを発見いたしましたッ!」
もう一人の兵士が続けて報告をする。
「はぁ…腰いてぇ…はっ、あと東部から沢山の住人を連れて参りましたッ!」
箱の中に手を突っ込みひとつのランタンを取り出す。スイッチを押せば温かい光が灯る。
「あと、皆が口々に似たようなことを言うのですが。「悪魔に救われた」とか「神に見捨てられた我らを堕天使がお助けに」…。」
うっすら光の当たったルドルフは難しい顔を浮かべている。とてもめんどくさそうだ。
「病棟送りだ。精神的に参ってるのかもしれん。箱はそこにおいておけ。」
二人の兵士は元気のいい返事と敬礼をしたあときびきびと下の階へ降りていった。
「大変だあああ!!」
今度は入れ替わりに違う兵士がえらく慌てたようすで駆け付ける。
「あの、赤のポーンの新入りのヨハネスがめちゃくちゃつよっ、強い!魔法ばりばりつかっ…!はぁ…はぁ…。」
膝に手をつき息も喘ぎながらで途切れ途切れでしか話せないが大体は伝わったアドルフは頭をおさえ深い溜め息をついた。
「…はぁ〜。無茶苦茶だ。一体、何が起こってるんだ…わけわからねぇ…。」








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