そもそも皆々余所者だというのに何故ジャックだけ土地勘があるのだろう。そこについてはシュトーレンも疑問だった。試しに聞いてみても良かったのだが。
「だってジャックさんですもの☆」
と、適当にはぐらかされるのが目に見えている。
「……………。」
正直、曖昧な言動が多い彼が気に入らなかった。どれだけ真剣な気持ちをぶつけても冗談めかして返ってくる。悔しいことにこんな状況で図太く飄々とした性格が嫌でも頼もしく思える。
「でもなぁ…あふぇ!」
突然ジャックがぴたり立ち止まり、シュトーレンは背中にぶつかった。コロナはなんとか回避した。
「いきなり止まるんじゃねえよ!ぶつかったらどうすんだ!」
すでにぶつかったのだが。
「おっと、すみません。皆さん…どうやら安全な場所など何処にもないようです。」
「どーゆーことだ?」
その時、道を挟む建物の屋根から先程倒したものと比べ物にならない巨大な魔物が次々と飛び降りた。石の塊がいくつも繋がって人の形を作っている。立て続けに鳴る地響きと土煙に噎せている間に四方を囲まれ、更には森から例の猿らしき魔物まで沸いて、三人はまさしく四面楚歌の状況に追い込まれた。
「げほっげほっ…ゴーレムか?よく潰れなかったな。」
物怖じしないジャックに対し初めて見る圧倒的な物体にシュトーレンは唖然としていた。コロナは向かって杖を構え臨戦態勢に入っている。
「いけるはず…!」
集中力を高める。駄目だ、数匹がこちらへ走ってくる。間に合わない、と思いきや後ろに聳え立つ街灯が倒れ魔物は見事下敷きになった。重力におもいっきり引き寄せられるような、不自然な倒れ方で。
「私だって魔法は使えるわ。星座魔法っていって…昼間だと効果が半減するんだけど。」
今のはコロナの仕業である。二足の草鞋を履いてる上に魔法を使うことが出来るというのだが本人曰く悪条件な為に本領が発揮出来ないのだとか。
「夜だったらよかったなー…なんて考えていたりしません?」
岩の塊が集まって作られた体躯の間接にジャックは滑らかに剣を滑らせる。人の形を成していた物がただの石となって地に落ちた。背中越しに問いかけると、コロナは深い溜め息をついた。
「考えて、どうにかなることならね。」
「どうにかしてみせましょう。」
コロナが眉間にめいっぱいシワを寄せ、物凄
怪訝そうな顔で思わず振り返る。
「はぁ?貴方…適当にも程が…。」
まだ話している途中、ジャックもまた振り返り際にウインクを飛ばしながら指を鳴らした。人を安堵させる為の茶番が逆に不安にさせると、相手にすることさえばかばかしくなる。

「ある…わ?」
「なんだ!?」
異変はすぐに現れた。三人がいる真上を中心に昼時の青空が黒塗りされていく。雲が漂う昼時の心地よい青空が、幾多の星が瞬く夜空に覆われていった。こんなことが信じられるだろうか。でも、見せかけのまやかしではないことに微かに肌寒さを見に感じる。
「暗っ!?嘘でしょ…?幻術魔法?」
急に視界が悪くなり、魔物の位置が把握できず前よりも不安に陥った。
「すっげぇ…まんてんの星空だ…。」
いや、シュトーレンは夜空を見上げ星に負けんじと瞳を輝かせている。
「見とれている場合!?…星空…?そうよ、星空ってことは星座が出ているはずだわ!」
月の照らす薄暗い夜空に散らばる小さな星は中に連なっている様にも見えるものがある。
「獅子座と蠍座が無いのが残念ねー…使えるからいいんだけど、水瓶座に山羊座て微妙なのしかないわ…ま、いいか。あれ?魚座?」
現在地は東部、つまり秋の星座が浮かんでいる。
「コロナさん!ぼーっとしないで、敵の方も目が暗闇に慣れてくる頃です!」
人思考するコロナの背をジャックが肘で小突く。彼女は慌てて前に向き直った。
「俺が発動したこの魔法は下手すれば生態系に影響を及ぼす可能性もあるのでそう長くもちません☆…異変に気付いて他の兵士は必ず駆けつける、それまで時間を稼げたらよし。」
「………わかったわ。」
効果が増加した魔法で敵を牽制しながら皆のサポートにも回る、それがコロナに出来る事でやらなきゃいけない事。文句は後からいくらでも言えばいいのだから。
「…俺は…えっと…。」
一方、武器もない、二人のような力もないシュトーレンはただ立ち尽くす。虚しさ、無力感と劣等感が沸き上がり、何かしなくてはというも焦りと見ているしか苛立ちが一度に押し寄せる。
「フフ…役立たずかどうか、試してさしあげますよ。」
腰のホルダーから抜いた刃渡り20センチ程のナイフをジャックが彼の手に握らせる。渡されたときは相手の意図が読めなかった。
「貴方は小柄な魔物をお願いします。敵の包囲が崩れたら…隙を掻い潜り道を真っ直ぐ走る。その先に大砲があるので、そいつをこちらに向かってぶっぱなしてください。」
もちろん、ジャックは真剣である。






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