しばらくの間、重い沈黙が続く。
「…………………。」
ただひたすら待っているシュトーレンは半ばで不安でもあった。もし、最悪の運勢だったなら。それは自分だけに降り注ぐ不運ではなく、大切な誰かを巻き添えにする災厄だとしたなら。例えば「今日は事故を起こしやすいでしょう」と言われたら自身の起こした事故により犠牲者が出るかもしれない。考えすぎかもしれないが、状況だけに神経質になっていたのだろう。
「前はそれほど考えたことなかったのに…。」
心の中で呟いていると、コロナが目を細めてこちらを見ていたのに気付く。
「はっ…占いの結果が出たのか!?」
どこか焦った様子で一歩詰め寄るがコロナは後ろに退いて距離をとる。どこまでも冷静だ。
「出たわ。……貴方は現在、大きな不安や悩みを抱えている。成す術も力もなく闇雲にかけずり回っている。そうでしょう?」
シュトーレンの表情といったらまるで狐に抓まれたように、思いがけないことが起こってわけがわからず、ぼんやりとしていた。決して口に出した訳ではないのに今の心境をそのまんま言い当てられたのだから。
「おう…そ…そうだぞ。その通りだ…。闇雲って、なんだ?」
「見通しもなく物事を行うことよ。」
親切に説明してあげたつもりがシュトーレンには理解できてなかったようだ。それを無視して本題を続ける。
「でも安心しなさい。貴方が憂いている事は杞憂に終わるわ。つまりは取り越し苦労、する必要のない心配ってことよ。」
しかし、する必要のない心配と言われ癪に障ったシュトーレンが顔をしかめる。
「する必要のないわけないだろ!?仲間の…」
ところがコロナも苛立ちを抑えきれず声を張り上げた。
「するのは勝手にしたらいいでしょ!!?」
自分より小柄な少女の怒声に全身が(特に耳)飛び上がるほど吃驚したシュトーレンはこれでもう完全に彼女に畏縮してしまった。
「…まあ、さっきの言い方では語弊があったかもしれないけど、ようするになんとかなるってこと。あ、あと星占いにはかかせないラッキーアイテムなんだけど…。」
どこの国のいつ時代の占いだというのだ。だが聞いたことのない言葉を疑うことのないシュトーレンにいいように吹き込ませた。
「ラッキーアイテムていうのは、これをもっていれば運勢がぐんと良くなる物よ。」
占い師よりもはや商人のごとし胡散臭さだ。されど彼はまんまと彼女の口車に乗せられている。
「そんなものがあるのか!教えてくれ!」
必死なシュトーレンに罪悪感を微塵も感じることのないコロナはあざといぐらいの笑みを浮かべた。
「ラッキーアイテムは…ティッシュ。」
慌てて服のありとあらゆるポケットを探してみたが残念ながら紙屑すら入っていなかった。割りと身近なアイテムだけあってこういうときに無いとショックも地味に大きい。
「はぁ…持ってきてねーや。」
落ち込む彼へコロナは何処からか用意したポケットティッシュを差し出す。
「ここにあるよ。ほらほら。」
視界の隅にちらつく白い物体に食いついたシュトーレンがすぐさまそれを手に取ろうとすると何故か引っ込めた。
「ティッシュは!?」
思わぬ意地悪をされて拗ねる様が見ていて可笑しかったが表情はぴくりともしなかった。
「幸せを手にいれるにはそれなりの対価が必要よ。」
言葉の意味はわからずともおおよそ察しがついたようだ。
「 代わりに金を差し出せ…ってことか?でも持ってきてないんだ。」
コロナは若干苦笑した。
「あはは…話が早くて助かるけどちょっと突飛ね。商売でやったわけじゃないし最初から君に金銭的な期待は一切してないから大丈夫よ。」
いらぬ一言を添えてまた長々と続けた。
「お金とまでは言わないがタダとは言わない。…なにか食料くれたらティッシュをあげる。まさか手持ち無沙汰なんてことないわよね?」
どすの利いた声にシュトーレンはゆっくり首を横にふった。
「…まさか手持ち無沙汰なんてことないわよね?」
今度は笑みに威圧感がかかった。恐怖心をぐっと堪えはっきりと言葉にして伝えた。
「な、なんにもねえ!!」
だが、そこで引き下がるような少女ではなかった。
「はぁ?なんにもないのに占えって頼んだの?払えるブツもないのに!?」
占い師の言い分とは思えない程がめつい理由で怒鳴り散らかされたシュトーレンも納得がいかずに反論する。
「占ってあげるって言ったのそっちじゃねーか!!」
「占ってあげようかって聞いただけ!決定したのは君よ!?そもそも手ぶらだって知ってたらこっちも考えたわよ!!」
コロナの売り言葉にシュトーレンの買い言葉となんとも幼稚な口論が繰り広げられた。
「じゃあいらねーよ!手ぶらだもんな!」
確かに、受け取るか受け取らないかは自由であり判断も彼次第なので押し売りされる筋合いはない。それに、一言も「ください」と言っていない。
「貴方の望みにこたえて占ってあげたのにその言い方はなによ!」
「それはありがとうって思ってるぞ!…つーかティッシュと交換に欲しいんだろ?さっきの占いとは別じゃんか!」
お互いに口が減ることなく、言い争いはついにただの罵りあいに発展した。
「大体そのチャラい髪の毛はなに?男のくせに女の子受けのいいピンクに染めて更にはうさ耳つけてモテるとか思ってるの!?」
普段なら素直に受け止めへこむシュトーレンも負けてはいなかった。
「染めてないしつけてない!お前だって全身真っ黒でごつい杖みたいなものまで持って占い師というより魔女みたいじゃねえか!」
「こ、これが目に入らない!?」
クロスのペンダントを見せつけるがわざと目をそらした。
「入らないぞ!」
「あぁそうじゃあ直接入れてあげる!」
とうとう手の出しあいになりつつある。争いが止まるまでには絶対どちらかがただでは済まない状態になるのではないかと、だが、彼らの他に人などいない。







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