――――…………

「…わああああああ……んでっ!!?」
空中から放り出されたシュトーレンは地面を転がりながら横断し、石造りの壁に全身を派手に打ち付けてやっと止まった。
「うぅぅ〜…。」
腰を折り曲げ体をよじるように動かす。芋虫のように。一番激しく打ったのは横腹だった。
「いってぇ…。あれ?此処は…。」
身をよじって仰向けになると、景色ががらりと変わっていた。木々が少なく、建物がある事自体おかしい。森の中から町の中へ飛んで移動したと言うのも俄に信じがたい話だ。
「……君…誰?」
視界に見知らぬ顔がこちらを訝しげに覗きこむ。金色の瞳にゆるいウェーブのかかったミディアムぐらいの長さの黒髪の華奢な少女だ。全体的に黒い衣装を纏い、木でできた杖を持っている。十字架のペンダントが逆光を浴びて眩しく光った。
「それはこっちの台詞だぞ。………。」
視線を下へ落とす。 そのつもりはないのだが、そよ風が揺らすものだから余計に見えてしまうのだ。
「どこ見てるの!?」
すぐに察した少女は顔を真っ赤に紅潮させて手にした杖をゴルフラケットのようにシュトーレンの脇腹めがけて振り上げた。手加減等微塵も感じられない一撃は鈍い音を立ててめり込み、声をあげる間もなくシュトーレンは勢いで俯せの状態に転がる。自業自得とはいえ、なんたる酷い仕打ちなことか。
「……………お、俺は…シュトーレンだ…。」
痛みを堪えながらやっとこさ立ち上がる。名乗る途中も服いっぱいについた埃を払ったりと落ち着きがない。どうやら、少女を畏怖の対象として認識してしまったようで、証拠といえるかどうかはわからないが長い耳は萎れた花のごとく垂れ下がっている。
「私はコロナ。とある教会のシスターをつとめながら占い師もやっているの。」
コロナと名乗った少女は先程のことについては一切触れない。確かに、謝る義務はないのだが。
「シスターっていうと、妹…?」
「占い師、をやっているわ。」
後者を強調したらすんなりと受け入れた。どうやら同じシスターでも「修道女」という意味はインプットされてなかったらしい。
「占い師…ていったらあのまんまるいガラスは?」
あげくのはてにシュトーレンにとっての占い師は絵にするなら布を被せた台座の水晶玉に占う対象の未来などを映しながら呪文か譫言かわからない言葉を呟くこれまた胡散臭い老婆という謎の固定観念でかためられていた。
「先入観を捨てなさい。占いは多岐に渡る。道具だってそう、カードや花占い…ちなみに私は占星術師。星座をもとに占うの。」
シュトーレンは訝しげに空を見上げた。雲が気持ち良さそうに漂う夕方の空。
「…星、見えないぞ。」
その問いも想定内だったようだ。呆れることもなく淡々と答えた。
「見えないだけでそこにあるわ。…その人の星座さえわかればいつだって占える。」
それを聞いたシュトーレンが何かを閃いたものか口にしようとしたところで思い止まる。

残念ながら、占いはあくまで憶測を言い当てるのみで対象が離れていては信憑性だって薄い。どうやら彼は千里眼のようなものと勘違いしているらしいが、今の事態を把握する事が目的なら確固たる真実が必要なのだ。そもそも仲間の星座も誕生日も知らないのだが。
「そんなことより、ここはどこなの?教会に足を運んでみたら知らない場所に抜けて…。」
難しい顔でゆっくり街を見渡すコロナが呟くには急に知らない場所へ足を踏み入れてしまったという。その出入り口が見当たらない。普通なら信じがたい話だが、たった今シュトーレンは身をもって体験したのだ。むしろ見知らぬ土地に、自身と同じ境遇に立たされた人物がいそこにいる事に安堵したい所である。
「ど、どうしよう…。あいつらとどんどんはぐれてしまう…。」
とはいかないようだ。少なくともシュトーレンは目的があるだけに足止めを食らうわけにはいかない。
「仲間がいたのね。」
しかし、コロナの呟きは耳に入らない。
「…俺はどうしたらいいんだ……。」
肩をおとし、途方にくれるシュトーレンの惨めな背中にコロナが話しかけた。慈悲はない。この状況での沈黙が続くのも気まずいからだ。
「……貴方の運命を導いてさしあげましょうか、私の占いで。」
中途半端に神秘性の欠けた誘い言葉にまんまと乗せられたシュトーレンが期待の眼差しで彼女を見つめる。単純で素直な性格故に占いに対し、妙な過信を抱いている節があるらしい。
「よくわからねぇけど、占ってくれるのか!?占いって、当たるもんだもんな!」
耳をぴんと上に跳ね、嬉々とした表情でコロナの肩を掴んだ。
「はっ、ちょっ…え!?当たる…。」
いきなり迫られてはコロナもぎょっとするもののすぐに冷静さを取り戻す。
「占いは人生の道標に過ぎないけど…そうね。私の占いは百発百中よ。」
「すげぇ!!あっ…ごめん。」
我に返り距離をとる。焦ったり興奮したりシュトーレン一人が忙しく見えてまるで滑稽だ。
「俺は魚座だぞ。兎だけど。」
「混乱するからどうでもいい補足いらない。…………魚座…。」
瞼を閉じて深く息を吸い下腹部からゆっくり息を吐いて集中力を高めた。








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