勝機はゼロではない。遠目で見たところ剣を持っている雰囲気はない、全身をがっちりとでま固めているわけでもない。がら空きの腹部を狙うか、頭部にダメージを与えれば相手の弱体化を図ることができると見込だのだ。
どっちにせよ、シュトーレンの行く先にいるためとても邪魔だった。
「おい!仲間割れはやめろ!!」
気配は既に察知していたのか、呼び掛けられる前には既にこちらの様子をうかがっている。
「無駄な抵抗はやめ…のわっ!?」
下手な説得を試みようとしたシュトーレン目掛けて杭のような物を投げ飛ばしてきた。前転してなんとか避けたはいいが、あんなもので頭を一突きでもされたらと思うとぞっとする。しかし、今の攻撃手段で概ね予想がついた。遠くの獲物に対し武器を投擲して倒そうと言う判断力があるなら防御反応だって残っているはずと 。
「お返しだ!!」
起き上がる際に手の中一杯に掴んだ砂を目眩ましに投げ付けた。
「……ッ!?」
パルフェは咄嗟に目の前で腕を交差させる。シュトーレンにとって半分はそれが狙いだった。視界を奪うだけではなく、腹を守るものが何もない。反対側から渾身の力を込めた拳を入れる。だが、片方の手で受け止められてしまった。
「この野郎ッ!!」
空いた手を水平に滑らせるかのように打ち込むが、パルフェは受け止めていた方の手を離すと同時に大きく仰け反り、足を勢いよく振り上げながら後転したあと態勢を直して一気に間合いを詰めた。回し蹴り、手刀、踵落としと次から次へと繰り出される近接技に押され気味のシュトーレンはひたすら受け流すことしかできない。小柄な体躯からは想像もつかないほど攻撃のひとつひとつが力強く、俊敏な動きで相手を翻弄する。日頃から惜しまない鍛練に精を出している者は己の肉体を武器に変える。これが素人と強者の差であった。

それにしても妙な違和感がする。注意はこちらに向けてはいるが、戦意を全く感じないのだ。反射的に回避、防御しては闇雲に殴りかかり、まれにシュトーレンの蹴りが当たることもあったが表情には一切の変化がない。機械か、操られた人形でも相手しているかのような感覚を覚えつつあった。
「どりゃあああ!」
所々僅かな隙を見せるパルフェの首元に見よう見まねの蹴りを見舞う。目と鼻の至近距離では身の防ぎようもない。確信があった。

だが、完全に見切ったパルフェは彼の足首を掴んでそのまま投げ飛ばした。
「うわああああああっ!!?」
いとも容易く、軽いシュトーレンは木と木の間を上手く通り抜けながらどこまでも飛んでいった。

―――――…
「うむ、ぴったりでよかった。」
特に目的もなくなったジャックは、この国で比較的身動きの取りやすい衣装に着替えた。一人だけで見張りをしていた兵士を背後から気絶させ無理矢理剥ぎ取ったのだが本人曰く「こっそりくすねた」とのこと。兵士はパンツ一丁のまま何処かへ放置し、着ていた衣装は燃やした。
「今は国を守る兵士さんの一員として、周りに溶け込まないと…ですね。」
ひとまずこれからどうするかを考えていた矢先、何かが自分の方へ飛んでくるではないか。近づいてくるにつれ物体は大きくなり、やがてそれは人だとわかった時にはやれやれと困った顔で首を横に振った。
「やれやれ、とんだ災難…ですねえ。」
ジャックの後ろは壁である。このままではどうなるか目に見えていた。仮に受け止めたとしても両方無事ではいられないだろう。
「こういうときは、こうです。」
壁にそっと手を添えると、巨大な魔方陣が浮かび上がり、そこへ、シュトーレンは吸い込まれていった。
「…ん?誰かも知らずに適当な場所に送り飛ばしたのですが…どこかで見たことある顔でしたねえ。」
魔方陣を消したなんの変鉄もない壁を眺めながら呟いた。どこか不適な笑みを浮かべながら。
「俺もついていってみましょう。退屈しのぎにはちょうどいい。」









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