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同じ病棟に居たレオナルドがまさか壁を蹴破り、そこからユーマも一緒になって逃亡するとは誰も想像しなかっただろう。シュトーレンもそうだ。犬猿の仲だと思っていた二人が真剣な面持ちでひそひそと話し合っていたのがたいして気にもとめなかったが、シュトーレンにとっては好機到来であった。
遭遇した魔物に負わされた怪我も実際にはたいしたことはないのに隔離され、シフォンとレイチェルの無事は聞かされていたものの途中で離ればなれになったアリスとエヴェリンの行方はわからずじまいだったのだ。仲間の安否も不明なままじっとしていられるような性分でもなく、だからといって誰にも見つからずに逃げる術もないシュトーレンは窓の外をうらめしそうに見つめるよりほかなかった。

―せめてこの窓から脱出できたら…―

そんな矢先、鎧を抱えたレオナルドが窓もろとも外と中を隔てる壁を一撃粉砕したのだ。断面図を見ても相当分厚い壁だった。そこから蹴破った本人と、あとからユーマが続いて逃走し、シュトーレンもどさくさに紛れながら二人の後を追うように逃げ出したのだ。呆気にとられた皆は止めることも出来なかった。

ただ、シュトーレンは二人についていく気など更々ない。

「はあ…はあ…あと、もう少し…。」
ひたすら走り続ける。城の兵士が連れ戻そうと追いかけてくるかもしれない。それ以上に彼の足は衝動的に駆けていた。シュトーレンが向かおうとしているのは、コロシアム会場。なんと、双璧の鏡城へ運ばれる際に通りすぎたコロシアム会場からの道のりをしっかりと覚えていた。しかし、アリスとはぐれた場所がコロシアム会場だというのは実はうろ覚えだった。それでも、わずかな可能性がある限り信じるしかない。
「くそ…、なんで大事なことに限ってうろ覚えなんだよ…!」
苛立ちを露にしてもなお走る。ひた走る。
アリスがそこにいる確証はないが、いないと決めつける根拠もない。この事態では常に「最悪の場合」を考えて行動しなければならない。

息を切らし、苦しそうに喘いで足場の悪い森の中を駆ける。もうどれだけ走っただろうか。どこぞの白兎でも走らないような長い距離を休むことなく全力を維持しながら走り続ている。体力は並程度にしかないシュトーレンもそろそろ限界を迎える頃だ。
「だ、誰かああああああ!!」
突然、男性の悲鳴が聞こえた。いちいち足を止る暇はないが、困っている人を放ってはおけなかった。
「…はあっ、はあっ、大丈夫かよ!!」
声のした方へと駆け寄ると、血の気の引いた真っ青な顔色の兵士が這いつくばっていた。
「……お前は……増援を…頼む。他の兵を…呼んでくれ…!!我々だけでは副隊長を止めることなど…!」
恐怖に怯えるその顔はまるでお化けを見て怖がっている子供に見えて仕方がなかった。兵士の鎧の下の色は赤色だった。
「副隊長?」
どこかで聞いたことのあるような言葉と記憶の断片が繋がりそうで繋がらない。その時。
「どぅわはああああぁー!!!」
二人の上空を人が飛んでいった。飛んでいって遥か向こうのガサッと音をたてて茂みに頭から突っ込んだ。
「……すげえ、人が空を飛ンだぞ!」
「飛んでるように見えるか!?吹っ飛ばされてんだよ!!」
好奇心に輝かせた目で茂みからがに股に開いた足が出ている滑稽極まりない様をじっと見つめているシュトーレンに間髪入れず兵士がつっこんだ。
「吹っ飛ばされたって…風に?」
すると兵士は指を差し、その方向へ振り向くと信じがたい光景が繰り広げられていた。彼のいう赤の騎士副隊長、指揮を執り仲間と共に戦うはずであるパルフェが次々と仲間の兵士を蹴飛ばし、殴り飛ばしているではないか。
「ひ、ひいぃ副隊長…お気を確かに…ぎゃぼべっ!?」
剣をおろし、すっかり士気を無くし手のひらをあげた兵士は腹部を蹴られコミカルな悲鳴を上げながら後ろへすっ飛んでいった。ここまで軽く足蹴にされると喜劇にすら見えてくる。
「…俺が止めてくるしかなさそうだな。」
まだ体力が十分に回復していないが、謎の自信に満ち溢れたシュトーレンが立ち上がった。
「そんなフラグ立てまくりの言葉を残さないでくれ…てかお前じゃ無理だ!見ただろ、今の!!数でいくしかない!!」
自分のことかの如く心配する兵士。そもそも一般人を保護する立場がわざわざ危険な目に合わせるわけにはいかない。例え相手が魔物ではなくともだ。しかし、兵士を呼び集める術はシュトーレンにとって大変都合が悪い。
「俺にはわかる!きっと発情期でこうふんしてるんだ!ひとまず力付くでおさえるぞ!」
そう言うシュトーレンに対し兵士は難しい顔で唸った。
「……いやぁ、違うと思うぞ。副隊長はまた別の…ってオイ!?」
兵士の言葉をあっさり無視して、いつの間にか目標へ向かって走っていってしまった。








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