しかし見たところか、腰から上を捻り魔物を横に打ち払った。綺麗な弧を描いた切っ先が胴体を切り裂く。
「―ガァァァア…お、おのれェええエッ!!!」
今度は断末魔と共に憎悪の念を吐き捨て、分断された頭部から黄色い粉を撒き散らしながら地面にぼとりと落ち、残りの根にあたるまでの部分もゆっくり倒れた。きっと、最初に倒された魔物は不意打ちだったため悲鳴を上げることすら出来なかったのだろう。背後からの瞬殺である。
反対側の魔物の殺気を感じたらすぐにサタンザは反動で剣を振った。軌道は己を軸に半回転し、加わったことで音もなく魔物を寸断した。
「―覚え…て、グゴガァァァァァアッ!!!」
またも同じように倒れていった。
「品がねえ死に際だな。」
というサタンザの側に、まだ二体が残っているではないか。彼は動こうとしない。手に持つ刃以外に隠し技でもあるのだろうか。

「はあっ!!」
サタンザの気合いの入った掛け声の直後、魔物が発光した。だがおかしなことに蒼白い閃光に飲み込まれた体は小刻みに震え、ようやく光がおさまったところで力なくぐったり倒れた後も痙攣している。視界が開けた先にサタンザとほぼ瓜二つの少年が立っていた。
「神通力使えばすぐじゃないか。」
後からスタンザが駆けつける。サタンザは何故かとても誇らしげだ。
「この方がほら、ヒーローて感じがするだろ?」
一方でスタンザは呆れ顔でうなだれる。
「悪役みたいな見た目しといてなにがヒーローだか…。でも数体街に侵入してたなんて気づかなかった。」
「やっぱ俺がいないと、な!」
せっかく感謝の意をあらわにしていたのによりいっそうスタンザの表情が曇る。確かにヒーローの出で立ちではないが、背中が寂しいスタンザはやや見劣りがした。

「あの〜…。」
怪訝そうにツバキが声をかける。
「助けてくれたことには感謝するけど…その……貴方達は一体?」
疑り深い自分に若干嫌気がさす。でも、彼等を信じたいからこそはっきりさせたかった。
「俺?俺は漆黒の偽悪者(ダークネスヒーロー)サタンザ…んごっふ!!」
その場にいる誰もがついていけないノリで下手な誤解を与えかねない紹介をするサタンザの鳩尾にスタンザの肘が直撃する。
「僕の名前はスタンザと言います。大丈夫、僕達は彼等の仲間などではありません。」
さっきまでサタンザに向けていた辛辣な表情は消え穏やかに微笑みかける。見ている此方の気持ちも安らぐような笑顔で、教会の屋内に足を踏み入れた。
「たまたまこの街を通りすぎようとしたら異変を感じたので駆けつけたのですが…。」
入り口付近で立ち止まり、薄暗い教会の内部を遠目で見渡した彼がなにか言いたげなのを察したツバキが口を開く。
「貴方達が来てくれなければ全滅だったわ。有り難う…。」
すると彼女がスタンザを好奇の目で見つめていた子供が質問を投げた。
「おにいちゃんには羽が無いの?」
さすがに面食らったがすぐに笑顔を取り繕った。
「………そうだね、僕にはないんだよ。」
子供は納得してくれたようで、これ以上の追求なかった。
「……………。」
別に無いわけではない。背中にはサタンザとは対照的な白亜の羽を生やしている。それを見えないよう隠しているのだ。なら「隠している」と素直に言えばいいのではないか?
だが、彼は人の住む世界、及び地上では人であるかのように過ごさなければならない。

そう、自分が天界に住まう者、「天使」であることは絶対に知られてはいけない。それにも理由はあるがここで言うことのほどではない。知られてはいけないのだから。サタンザはつまるところ堕天使で、天界との縁を切っているためそのへんの不自由はないが、スタンザの事情はよく知っているため吹聴などといった真似はしない。






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