真っ昼間だというのに目が眩むほどの強烈な閃光が異形を貫く。
「ギィヤアアアアアアアア…!!」
断末魔はいくつも重なりあい、ただの騒音となる。だが全身を包む光が消えた頃には魔物はぴくりとも動かなくなった。
「力を出し惜しんでしまったかな。」
なにが起こったかさっぱりわからず棒立ちしている人影二人を平然と見下ろしながら呟くスタンザを尻目にサタンザは深いため息をついた。
「俺なら灰にしてやるけどなあ。」
「あ、そうだよね。止めるべきじゃなかったよ、ごめん。」
とは言うものの無表情のスタンザ。だがサタンザはえらく上機嫌だ。
「だろだろ〜?実際俺の方が強いんだからな。」
腕を組み、ふんぞり返るサタンザの態度が余計癪に障ったようで。
「君もまとめて消し炭にしてやれたのに。ごめんね。」
と、彼の方を見向きもせずに言い放った。
「何に対しての「ごめん」なんだよ、それは…。」
自慢も通らず、意図の不明な謝罪とさりげない暴言に今度はがっくりと肩を落とすが、後方から複数の気配を感じた二人は険しい表情で振り返る。一直線にこちらへ向かってくる黒い物体は物凄い速度で通りすぎていった。
「あれは…なんだ、カラスかよ。」
そう、人を襲うには拙いただの鳥類だった。それにしてもとてつもない速さで飛んでいく様子はまるで「逃げている」風にも見えた。
「まだ気配を感じる。」
「カラスの群れだろ。」
それが妥当だというサタンザの考えにスタンザは素直に頷くことが出来なかった。もっと禍々しく、重圧的な気配を感じたのだ。そして案の定、彼の勘は的中した。

先程スタンザが葬ったものと同じ魔物が目と鼻の先を通り過ぎた。数はざっと見て五匹程。その巨体からは想像もつかない速さであっという間に遠ざかっていった。
「……なんだろう、嫌な予感がするな。」
魔物の向かった先を真剣な眼差しで見据えるスタンザに対し、サタンザは手を頭の後ろで組んでは一緒に眺める。その顔には「呆れ」が見えていた。
「さっきから神経質になりすぎだって。いや、俺だって何も考えてないわけじゃないけどさ、あれはどこからどう見たって…。」
たまたま空を飛んでいたカラスがかっこうの餌食にされているだけ、とサタンザは気にもとめていない様子だ。
「それとも、天使の前に命は平等だって言いたいのか?」
あげくには皮肉を吐いたがスタンザの表情は変わらない。
「そういうことを言ってない。それに、いつまでもこんな所にいたって仕方ないだろ。追いかけてみるよ。あ、別についてこなくてもいいよ。」
忘れないようにしっかりと告げるとスタンザは風向きと平行になるよう足を浮かせそのまま飛び去った。空気抵抗をもろともせず加速を続ける。標的に追い付くのも時間の問題だろう。
「あっ、ちょっ…おい!!」
サタンザも同様、何もない所に用事はない。土地勘もない場所に置き去りにされてたまるものかとスタンザの背中が見えなくなってしまわぬうちに慌てて後を追いかけた。



――――――…………


「………うまく撒いたようね。」
東部の街にある図書館の司書を勤めている少女、ツバキは北部のとある街に逃げ込んでいた。というのも、自らの変身能力を利用して図書館を襲おうとした魔物を誘きよせながら曲がり角で目をくらまし、自分の居所をわからなくしたのだ。しかし、その為には魔物に追い付かれないよう常に全速力をキープしなくてはならない。故に疲労は相当なものであり、元来た道を引き返そう途中にでも魔物に遭遇したならそれこそどうにも出来そうにない。何処かに隠れながら体力が回復するのを待つしかないと選んだのが今いる場所だ。

薄緑、白と色とりどりの煉瓦造りの家が建ち並ぶおもちゃのような街を分厚い雲が覆い、街灯は仄かに照らしている。

東部と北部の境目にあるこの街は旅人や観光客が一旦足を止める事が多く、交易も盛んな地方都市として毎日のごとく人で賑わっているのだが、誰一人として外をうろついてない。家や店の電気も消され、不気味なほど静まり返っている。その理由は、現在相対の国が置かれている状況からしてすぐに察しがついた。

まず、建造物が無事だということは此処より安全性の確かな所へ住民が総出で避難したのだろう。魔物は人のいない場所をわざわざ襲撃してこない事に気付いた人々は運が良かったといえた。
「………無知は損するばかりね。」
それも知らず自ら抗う術を選んだ者達が街ごと消し炭に成り果てる様をこの目で見てきたツバキは遣る瀬ない悲しみを堪えるほかよりなかった。


「なんて言ってる場合じゃないわ。奴等が来る前にどこか隠れてやり過ごさないと…。」
服についた葉っぱを払い、一時的に適当な家屋へ身を潜めようと辺りを見回す。しかし、他人の家に勝手に足を踏み入れるのには若干抵抗があった。
「躊躇ってどうすんのよ。この期に及んで……。あっ!?」
だが一刻を争う事態に焦り始めたツバキは目の前の民家に入ろうとドアノブに手をかけたが二重に鍵がかけられておりびくともしない。手当たり次第に他の民家や店のドアもあたってみるも非力な少女の力ではどれもこじあけることは出来なかった。
「まあいいわ。屋根か何かあれば隠れられ…あれは…?」
彼女の目に飛び込んできたのは登り坂になった大通りの先に佇む小さな教会だった。これ幸いなことに扉が僅かに開いている。屋内なら余計な心配をせずに休むことが出来るとツバキは周囲、特に上空の気配に神経を尖らせつつ坂を駆け上がり、苦しそうに喘ぐ彼女はゆっくり扉を押し開けた。







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