空は雲一つ無い清々しいほどの快晴。だが、いくら太陽が照らそうと相対の国の東部は年中秋。冷たい風がずっと吹き抜けるこのま街ではせっかくの良い天気も「晴れた日はまだマシ」という程度の有り難みでしかない。中心都市を挟んで反対側に位置する年中春真っ盛りの西部なら、どれほど心地好いものだろう。同じ条件下に置かれても環境が違えば天と地の差である。

天と地、上空と地上。平和だった最東端の小さな村も異世界から放たれた異形の化物の群れに襲撃されていた。飛行能力のあるものは空から、逃げ惑う人々を行き止まりまで追い込みまとめて仕留める。空中の敵に対する反撃手段がなければ太刀打ちできるはずもない。桑や鎌などといった農具で抵抗した屈強な者もいたが圧倒的な数と力に次々と屠られた。民家は燃え上がり、隠れる村人も逃げる村人も皆が野に無惨な姿を晒す。これをこの世の地獄と言わずしてなんと言おう。


「…何がどうなっているんでしょうか…。」
化物(または魔物)の群集は低空を飛び回っる。その遥か上を人の姿をした者が浮いていた。鮮やかなブロンドの髪は一部が跳ねている。若干目付きが悪いものの精悍な顔立ち、ネクタイをしまいこんだベストにブーツと一切乱れてない身なり、散らばった前髪と襟足を除けば全てが整っていた。腰から下がっている細い紐のようなものはおそらく飛行移動の際の補助がわりのものなのだろう。左手首には金色の腕輪、見る限りではただの装飾品だが。それよりも服装そっちのけであるものが少年のもっともたる特徴を露にしていた。

背中からは真っ白な羽。更に服を貫通している。羽を体の一部とする動物とはまた違う役割を果たしている。浮遊は決して羽によるものではない、ほとんど羽ばたいていないところをみれば。

「…えっと、確か地上の見回りをしていたんですが、ここは…?」
難しい顔で下を凝視する少年を何者かが物凄いスピードで追ってくる。
「スタンザアアアァァァァァァ!!!!!」
少年と瓜二つの姿をした少年。しかし、髪は烏の濡れ羽色に漆黒の羽、白と黒を基調とした少しラフな服装と所々が対称的である。
「………。」
このままでは全身でタックルをされた挙げ句一緒に吹っ飛んでしまう。とは、ならなかった。軽い身のこなしでひらりとかわされる。
「あああ…うわあああ!?」
当然、もう一人の少年は真っ直ぐ飛んでいったがすぐに身体をひねり今度はゆっくりと戻ってきた。
「ひどいぜ…こんなわけわからないトコまで必死についてきた俺を受け止めてくれたっていいじゃねえか!」
「なんだサタンザか…ついてこないでよ。」
お節介を事も無げに拒絶される。サタンザは全く堪えてなかった。
「にしてもほんとーに、ここは何処だ?一瞬にして世界そのものが変わったような…。」
彼の意見にはスタンザも同感だった。
「そう。街とか国の境とかそういうのじゃない。突然視界に映る景色が変わったんだ…。想像しがたいけど、僕達…もしかして。」
すぐにひとつの結論に辿り着いた。
「異世界に迷いこんだ…とか。」
真顔で言われたところでサタンザはいまいち真実味に欠ける話、つまりは極論だと茶化した。
「いやいや…そんなファンタジーなことそう滅多に起こるもんじゃないだろ。」
存在がファンタジーだと、喉の奥まで出掛けた言葉を飲み込み自信のない当て推量を代わりに言い聞かせた。
「そりゃあそうだけど…並みの人間にはない力を持つ僕達だからこそ強ち有り得うる現象なんじゃないか?つまり…。」
どうも曖昧なスタンザの憶測を、空を切り裂くほどの甲高い獣の咆哮が遮った。

「サタンザ、僕の話がつまらないからっていきなり鳴かないでよ。」
「俺じゃねーよ!!」
むきになって反論している最中もひっきりなしに鳴き声が聞こえてくる。当然だがサタンザのものではない。
「下だ!…おい…人が囲まれてるぞ!?」
スタンザも同じように視線を落とすと、異形の者の群れが輪になっていた。四本の足に支えられた膨らみのある肢体から蝙蝠を思わせる角ばった羽と長く伸びた首。遠目から見てもその姿形がわかるのだからよほどの巨体。

その真ん中、二人の人影が囲まれていた。幼い女の子をかばうように青年が松明で威嚇しているもそんなちんけな炎で一体何ができるというのだろう。腰はすっかり引けており、これではまるで蛇に睨まれた蛙である。鋭い嘴が身を穿つなら即死、補食されたら言うまでもない、踏まれても、蹴られても、人の体ではどの衝撃にも耐えられない。逃げ場もない。どう足掻いたところで結果は目に見えている。
状況を見るや否や直ぐ様急降下しようと前のめりに態勢を変えるサタンザの腕をスタンザが掴んだ。力付くで振りほどこうとしても、この手を離せば迷わず行動に移すだろうとスタンザには読まれており、そう簡単に離してはくれない。
「離せよ!ほっとけって言うのか!?」
耳がいたくなるような近くからの叱責に対する返事に対していたってスタンザは冷静だった。
「下へ降りるまでもないよ。あれがこちらに気付くと逆にあの人達が巻き込まれる可能性がある。」
まだ不服そうなサタンザを無視し、下へ向けて真っ直ぐ手を伸ばす。そして左手に凝縮させたエネルギーを一気に放出した。



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