「…で、冗談はさておいてだ。」
パルフェの右手が腰から提げた剣の柄にそっと触れる。万が一の事を考えると握るまでにはいかないが、ほぼ確信していた。
「君は手当たり次第か、こんな可愛い僕を狙っていたのか。かかっても…いや、「こうなった場合は」どうするつもりだったのかな?」
そう、 前者ならわざわざこうして本人が出てくる必要はない。そうでなくとも出てこなければ良かったのだろうが。
「いちいち癪に障るよなぁ猫被りめ…。どっちにしてもお前みたいな奴ムカつくから今すぐここで皆殺しにしてやる!」
ただし対象は一人しかいないが。パルフェはすぐさま剣を抜いたがむやみに突っ込まず構えたまま相手の出方を窺う。人の形をしているだけの人ならざるものはどういった攻撃を仕掛けてくるかわからない。案の定彼女は性格的にも先手を打つタイプのようだ。
「リインフォース!!」
ハーミットが自身を魔法使いと言ったのが嘘か真かは今にもわかるだろう。一瞬彼女の体がうすら青白く発光したと思いきや今度はまるで飯事にはしゃぐ子供の如く随分楽しげに箒を対象に向けた。
「アイスバーグ!!」
するとパルフェの立っている足元の遥か下の方から何やら不穏な物音がこちらに向かって上へ上へ近づいてくる。危機を察知しその場を退いたが間一髪、なんと地面から氷柱のように鋭く氷山のように巨大な氷塊が勢いよく突き上げてきたのだ(ちなみに今の魔法は「Iceberg」、つまり「氷山」という意味である)。
もしあのようなものに身を貫かれたなら…と思うと寒くなくとも肝が冷える。
「あっぶな…うわっ!?」
寸前に察知したものだからかろうじて避けたが、それは自分を追いかけるように次々と現れる。避け続けるうちに自然に足が進むのは前、敵のいる方。そこで待ち受けているのは、仁王立ちのまま手持ち無沙汰のハーミットだ。いくら知能が低いというもののまさか自ら刃を生身で受けようとしているわけ手間はないだろう。パルフェは剣を盾代わりに構えながら前進した。やはり彼の予測は当たっていたことをすぐに知る。

彼女の体に刻まれている「武器収納魔法」の印。彼女自身が武器庫そのもので、魔力が高ければ体に負担をかけることなくより沢山の物を収納できる。が、通常は印のある箇所を晒さないと意味がない。つまり、ハーミットはそれを最大限に活用することができるのだ。
腹部、両腿と両膝。止めどない数の槍、または矢そのものが一点めがけて勢いよく放たれた。このようなもの、避けようがない。
しかし、誰も避けるしかないとは思っていない。

「…嘘でしょ!?」
ほんの一瞬、時が止まった感覚に襲われた。気のせいではない、先程までまだ遠く離れた所にいたパルフェが目の前まで詰め寄り剣をふりかぶっていたのだから慌ててハーミットは勢いよくおろされる刃を直接手で掴んだ。
「は!?…うそ、びくともしない…。」
普通なら今頃指がバラバラになっていてもおかしくない。なのに、岩に突き刺さったかのように全く、動かない。
「一時的に強化したからね。それより、目の色が変わってるな。そんでもって獣臭い。」
ハーミットは既に余裕の表情で、何かを見透かした碧眼が真っ直ぐ睨む。
「…なにをいってるか、さっぱりわからないよ。」
そう言うパルフェは彼女の言う通り、目の色が黄色から緑色に変わっていた。

「どうせお前は本気を出せないよ。生半可に受けた力は呪いとなって直にお前を侵食するさ。」
すぐさま毛の部分を冷気で凍らせ鈍器と化した箒を相手の隙だらけの腹に片手で軽々と振り回し殴打した。パルフェは声をあげる事もなく横倒しになる。体を起こされる前に止めをさしてしまえばこちらのものだ。膝の印から取り出した刃が炎の形をした剣を、無防備な所を狙い突き刺した。ここまではお互い無言である。

しかし、切っ先は彼を貫くことはなかった。

パルフェもまた「呪いの力」により痛みによる耐性及び五感が人一倍鋭くなっていた。とはいえさすがに剣に身を貫通されて平然といられるわけもないが、腹を強打した痛みに悶えているようなら今こうして反射的に剣を握ることなど出来なかっただろう。

綺麗な軌道を描き薙ぎ払われたパルフェの剣は少女の姿形をした魔物を確かに二つに斬り裂いたのだった。
「あ…っ、え……これ…。」
何かちゃんとした言葉を最期に呟いてるような気もした。もしかしたら自身の呪いのことについて詳しい話も聞けたかもしれないと思うと少しばかり残念だが、視界の先に向こうの景色が見える頃にはそのようなこともどうでもよくなってきた。
選択肢で未来は極端に変わるものだ。選んだ先に正しい、間違っているといったものは本当は存在しない。もたらすのは自身への結果のみ。それがこうも、虚しい結果にもなってしまうのだ。

「………。」
気を抜いたらパルフェもこれよりもっと酷い状態になっていたに違いない。そう考えると自分のとった行動は間違っていなかったのかもしれない、勿論、正しいとはとても言い切れないが。
「…に、しても案外あっけなかったよな。」
いくら伝説の魔物を名乗りその通りだとしても肉体は人間の少女。対峙したらどちらかが命を落としかねない戦いには関係無い。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -