そして生気のない瞳からなぜだろう、身を内側から冷やしていくような殺気を感じる。
「君のことおばさんとは言ったけどこう見えて子供って歳じゃないんだよ、少なくともこっちの世界では。」
予測していた以上だった。油断していなかったわけではないが、所詮時間稼ぎにもならないとやたら冴えた頭が導きだしたたったひとつの結論。だがこちらも、敗北を信じたくない。誰もいなくなっても白旗は振りたくはなかった。
「教えてあげるよ、どうにもならない現実ってやつをさ。」
するとスネイキーの武器が刹那光に包まれ、次に姿を露にしたのは先程のような特異な形態の物ではなく長い柄に逆三角の幅広な対称刃を持った槍、パルチザンだった。槍としての突く機能と共に斬る力を兼ね備えている万能の槍である。しかも、実物より刃が大きく改造されていた。

まずは力の差という現実を、続いて実力で示す。そのまま前へ突き刺したが彼女が頭を引いて攻撃を流すこともわかっていた。リグレットが後ろへ下がることが出来ないこともわかっていた。踊っているようにも見えるほど軽々と振り回しながら攻めるがそれを受け止める方の手は早くも痺れ始めている。
「く…ッ、隙が全くない!」
小柄な体に似合わずとてつもない威力の繰り攻撃を絶え間なく繰り出してくる。反撃の余地がないのに形勢逆転は専ら不可能。しかし、戦闘経験から彼女は模索した。無いなら作ればいいのだ。リグレットはわざと自分からもろに食らいに行った。
「は?気でも狂ったの…。」
レースのついたコルセットはある程度丈夫な素材で作られているが、それでも確かに横に振った刃は浅くも腹部に刺さり軽く食い込んでいる。当然スネイキーは刃の先を目で追うだろう。即ちそれがリグレットの作った隙なのだ。
「傷付く覚悟の無い者に人を傷付ける物を持つ資格などございません…!」
彼女の槍はスネイキーの足を貫いて地面に深々と刺さっていた。苦痛に歪む端整な少女の顔、されど痛みでいえばどちらの方が酷いか一目瞭然だ。
「へえ…なるほど、ね…。」
なのに対して堪えていない。耐性は普通の人間の倍近くあるのだろうか。そうにしても体諸とも貫通しては動けない。
「見世物ではないですよ。今のうちに早く逃げなさい!」
固定した状態の槍から手を離し、刺さる刃を押し退ける。
「私たちも共に戦います!」
声をあげたのは雛菊の少女で、そこから喧しく皆が皆口々に我はと名乗りをあげる。
「お黙り!!」
だが張り上げた声で一喝されたものだからすっかり怯んで黙ってしまう。
「…守るものがなければ今頃愛しい人の元へ全てを投げ出し逃げていたかもしれません。」
何にせよ順番は必ず存在するわけで、彼女は偶然にも「愛しい人」より先に命を受けて生まれたのである。生まれた時から既に強い意志を胸の内に秘めていた。だがリグレットは自らを語る事はしなかった。彼女なりの謂わば美徳だったのかもしれない。
「……勘違いしてましたわ。貴女は常にあのお方の事だけを考えていると思っていました。」
「居場所を守りたいのは我々も同じ…共に散りましょう。」
「散ったらだめじゃん!」
女は寄れば姦しく、勝手に賑わい始める。

その時、攻撃を仕掛けようと横に薙ぎ払った槍ごとスネイキーの右腕を背後から、鞭のような物で搦め取った。正確に言うならそれは刺の生えた「茨」で出来た鞭だ。

「誰だい、あたいの領域に侵入した挙げ句にばかでかい落とし穴まで作ったのは。」
数メートル後方には片手で鞭を引っ張った状態で仁王立ちしている花君達のリーダーことサンタマリアがこちらを見てやれやれと呆れている。 衣服と言えるかは難しい布面積の少ない服な土や雑草にまみれて褐色の肌でも目立つような切り傷があちこちに刻まれている。
「まんまとかかっちまったよ、やれやれ…。花畑にあんなもん作ったら誰も来なくなるじゃないか。」
そのわりには余裕綽々な態度が見受けられる。落とし穴は勿論、スネイキーが掘ったもので間違いないが彼にとっては動物で言う習性であり、言わば習癖と同じなのである。
「心配しなくていいよ。枯れた花畑に来る奴なんかいないから。」
「あたいは、あんたを倒し地に埋めたら養分として取り込み美しい花を咲かせるのさ。」
どちらも一歩も引くこと顔を合わせることなくお互いに威嚇を示す。 二人の周りを囲む空気だけ異様なまでにはりつめているみたいに。
「青薔薇様…!!」
いくら化物だろうが今は血の通っている人間の姿。痛いのかそうではないのか通常ではない感覚を共感することは出来ないが、体の一部ごと貫かれた地面に大きくなる赤黒い水溜まりと彼女等を交互に見てはリグレットも激しく動揺している。他の花君達もまた然り。
「青薔薇…?」
振り向くのはまだあどけない子供の顔だ。自然と鼻から笑みがこぼれる。
「あんたは青臭いガキ…ってとこだね。」
もう子供扱いされることについて重々承知していたので反論はしないものの黙ってなどいなかった。
「青薔薇様、そいつただ者ではございません!」
リグレットの助言を聞くまでもなくサンタマリアは彼が他の化物とは比べ物にならない程の魔力を肌に感じていた。目に見えてもわかる通り、彼を縛る鞭が先から腐り始めている。
「青い薔薇はレアだとどっかで聞いたことあるしに初めて見た。お前を供え物にしよう。」
「そりゃあありがたいねぇ。…ただし、墓に眠るのはあんただよ!」
伝説となり過去の歴史に名を残した魔物と現在その名を轟かせる若き有力者、一つの大きな力と沢山の小さい力。果たして全てが終焉に近付こうとする時に生き残っているのはどちらの方なのだろう。








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