「殺したら死んじゃうからな!」
同じことを二度主張した。狡猾な殺人鬼の知能ではない。アリスは考えた。本当に今目の前にいるこの少年があの男なのか。もはやここは全くの別人とらえてもよいのだろうかと。あの鏡を飛び越えてから変化が起こったのはアリス自身もだ。今まで忘れていた「思い出」がここにきて甦った。

でも、あの男とシュトーレンになんらかの接点があるとしたなら尚更ここは全くの異世界ではないとも考えられる。考えれば考えるほど謎が深まっていくばかりだ。そもそも急激に色々なことが起こりすぎて思考を停止したくなる。
「シュトーレンは長いから親しみをこめてレンさんって呼んでいいぞ!」
会ったばかりでどう親しみをこめろというのだ。愛称ではなく、略称として呼ばせてもらうことにしよう。
「レンさん…ね。元にいた世界の記憶はないの?私を見てどう思う?」
「あるぞ!淘汰の国のお茶会していた!」
自慢げにそう言い張る。お茶会、淘汰の国と言われて懐かしい景色が思い浮かぶ。だが疑問は増えた。彼も淘汰の国の居たということになるが確かに最初に「三月兎」と名乗った。アリスが来たときにあの席には先客がいた。
「ん〜…ますます引っ掛かるけど、ひとまず外へ出ましょう?」
「ん?あぁ、おう…。えっと。」
いくら誘われたからといって「はいそうですか」の一言で不法侵入者を見逃す家主はどこの世界でもそうそういないし、ここには身内もいない。詮索より一刻も早くこの場所を出ていかないと、「鏡に誘われてやって来ました」なんて事実がまかり通りそうもない。幸いシュトーレンは自分に危害を及ぼす心配はない。置かれてる状況は同じだ。

「決まりね。じゃあ早速ここを出ましょ…。」
そこまで言いかけた言葉を止めた。
「え?な、なに…!」
突然シュトーレンがアリスの肩を掴みそのまま無抵抗の体を押し倒した。衝撃はベッドが和らげてくれて軽く沈む。驚きに丸くした瞳が映したのは好奇の目を浮かべた無表情。ここでアリスは忘れていた恐怖を思い出す。









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