「え…あの、頭をおあげになって下さい!」
すると言われた通り態勢はそのままで頭というか首だけを上げた。それはそれでアリスも対応に物凄く困るものである。
「そうじゃないわよ!」
思わず発したアリスの言葉はアレグロにとっては全く意味がわからなかった。
「…なるほどのう。それがお主の目的…か。」
うんうんと二度頷くハーティーに、一縷の望みをかけた眼差しを向ける…が、目に巻き付けた布越しではそれは彼らに届くはずもなく。
「でもそれって裏切ったってことにはならないと思うの。だって結局はその人のためにやろうとしていることでしょう?もし裏切るとしたら…。」
横目でハーティーに視線を送る。
「ワシがこやつの望みを承っても素直に喜べんと言うことじゃ。」
やや遠回しな言い方に残念ながらアリスには何も伝わってこなかった。
「おらの頼みを聞いてくれるのか?」
一刻も早くもいい答えが返ってくるのを待っているのも、藁にも縋りたい気持ちも忖度してなお、ハーティーは嘲笑で口角を持ち上げる。いや、自嘲かもしれない。
「……自分の慕う人物を今から殺しにいこうとする奴等にそのようなことを頼めるのか?」
そう、倒そうとするというのは綺麗事。封印など生ぬるい慈悲は一切かけず、二度と復活してしまわぬよう息の根を止めにいくのがここにいる皆の目的であり、アレグロにとってはジャバウォックが生きたままで在ることが前提なのに全く意味を成さない。
「…………。」
本来なら敵にあたる人間に頭を下げてまで願ったのに、ここで「それでもいい」と「やはり駄目だ」の二つの心のジレンマに苛まれた。

迷い、悩む、されど時間は誰に対しても待ってはくれない。その焦燥から追い討ちをかけられた彼は更に迷い、深く悩む。

「……もう一回封印できないの?」
突拍子なアリスの質問。言われてみれば「打倒ジャバウォック」の流れで事が進んでいたことに今更ながら気付いたのだ。あんなに封印だの言っといてのこれであった。
「それも…そうよねぇ、ハーティー。」
と、怪訝な顔で睨むカルセドニーにハーティーはひどく慌てた。
「わ…ワシだけが悪いみたいなその顔をよさんか!そもそも誰じゃ!倒しにいくだなんて考え出した輩は!!」
周囲をぐるりと見回すと、誰も口を開かない。

皆同じことを考えていたのだった。

「情けないのう…実に情けないのじゃ。」
自分を棚にあげて不平をこぼすハーティーは大人のいうことに文句をごねる子供のように見えて仕方がない。だがそうとなれば勿論、比較的平和な方法を選びとるに決まっている。
「封印…?」
小声で呟くアレグロにも不安は引いていた。
「ええ、とりあえずジャバウォックを止めないといけないのだから…それが貴方の望みなのでしょう?多少違うところはあると思うけど…。」
アリスの提案に数秒考え事をしてから縦に頷いた。言葉の説得に応じてくれるような相手ではないとわかりきっているからこうして頼みに来たのだ。
「あの方の為だ。んで、これ以上争いも増やしたくない…おめぇらが協力するならおらも力になる、出来るだけ…。」
アリス達はまさか魔物という強力な助っ人を手に入れた。しかし同じ目的のある者を利用するのではない、互いに支えあいながらひとつの終着点に向かって進む、それだけのこと。

「私は残るわ。兵士としてのお仕事があるからね、一応。」
カルセドニーは彼らに任せることにした。こうしている間にも負傷者は兵士や住人問わずどんどん増えていく。なにより、ヘリオドールをずっとほうったらかしにするわけにもいかない。
「そうか、頼んだぞセドニー。」
そう告げるとハーティーは布地の厚いマントを翻し、これから向かう面々に指示を出した。

「アレグロよ、お前は言った通りワシとアリスをジャバウォックの所まで連れていくのじゃ。ガキ二人など軽いもんじゃろ。」
やっと立ち上がったアレグロは鈍感そうに見えても話の飲み込みはやけに早く、なにも言わずにアリス達と出会った時の元の姿である四足歩行の巨大な獣の姿へと変えた。ちなみにハーティーは前の戦いで見たことあるため驚きこそしなかったが懐かしんではいた。
「アリスには行く途中に説明する。覚悟はできておるか?」
呼ばれたアリスは切れのいい敬礼をした。決してふざけているのではなく、本人は真面目だ。
「い…いえっさー!!」
いつ、どこで、どうやって覚えてのか不明な言葉で気持ちのいいぐらいの声で返事をする。準備は万端、気合いは十分。
「いい声じゃ!よーし…あ、まず乗らねばならぬ…。」
どこまでも気の抜けている発言が目立つハーティーは軽々と毛に覆われた背中の上に股がった。さすが、縮こまってしまったとはいえその姿は中々様になっていた。
「アリス、ほら。」
上から差し出された手を握っては足をあげるだの若干もたつきながらもなんとかハーティーの後ろに乗ることができた。木登りとほぼ同じ要領で行ったらすぐそばにいる怪我人よりはスムーズに乗れた。








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