ハーティーを知る当の本人がこの反応なのだ、やはりアリス達が想像していた容姿とほぼ一致していたのだろう。勇者王ハーティーことハンプティ・ダンプティは決してこのような幼き子供ではないと。
「とりあえず認めるわ、認めるしかない。まさかとは思うけどぉ…能力もまた子供程度しか〜とかないわよね?」
一番自信を喪失しているのがカルセドニーだった。彼女は言われるがままの行動に及んだ上にハーティーも予想だにしていなかった事態に陥ったのだから、カルセドニーに負があるわけではない。
「心配するでないぞ!むしろ今のほうがこう…身軽で動きやすくて…う゛ッ!」
腕をぶんぶん回したり腰を捻っていたりと若い肉体を実感していたところ突然その場に崩れるように四つん這いになった。あまりにも急すぎるので見る者皆がすぐに対応出来なかった。
「どうしたの?」
アリスの不安そうな声に震えた低い声で返した。
「…な、何故じゃ。この身体でも腰痛は治らんのか…。」
不安はより一層倍増した。腰痛とか言っているのだから。確かに体が子供に戻っても持病が持ち越されるのかは幾分謎に尽きるが、なんなのだろう、出会った当初から彼に「それらしき雰囲気」を全く感じないのだ。
「まあ卵のままよりはそりゃこっちのほうがマシに決まっておるが…いてて…随分前の体もガタがきておったようじゃのう。」
ひどく落胆した様子でなんとかハーティーは自力で立ち上がる。見た目はさておき、中身は変わっていないようだ。

「…大丈夫なの?」
対して辛辣にハーティーの無様を見下ろしながら訊ねるカルセドニーが、自分の容態を見てそう言っているのではないとすぐに察した。
「大丈夫大丈夫!ワシは本来の姿を取り戻したと同時に、大いなる力を手に入れた…悪いが負ける気はしない。」
そう、大いなる力とは言わずもがな「自由の鍵」だがあくまで封印を解くのが目的の代物であり所有すればいいだけの物だった。だが、それもできなくなってしまった。代理として持たせていた所有者と自由の鍵が一体化してしまったのだ。ならば方法は一つしかない。所有者と自分を更に一体化すること、即ち合体。故にハーティーは鍵と、所有者の力も得たのである。つまり言えばもう二度と代理の所有者は戻らない。
「あっ、そう…。でもこれから大変なんじゃないかしら。今度はあんたが背負うことになるから…。」
今後はハーティーが「自由の鍵」を宿すことになる。彼の体が小さな器では力に飲み込まれてしまうのではないか、それに全ての真実を国民に知られてしまったことを考えるとカルセドニーも他人事では済まされない。しかし、ハーティーは至ってのんきだ。
「お主がワシに嫁いでつきっきりで守ってくれたら良い話じゃ。」
刹那、カルセドニーの心が揺らぐ。
「玉の輿…ハッ!?あんた何もないでしょ。却下よ却下。」
金銭的な欲望に駆られただけだ。しかもさりげないプロポーズ(もちろんただの冗談)をあっさりと断った。
「カルセドニーよ、お主はすっかり変わってしまったのう…。」
「誰かさんみたいに引きこもってないし、長い間外で暮らしてりゃ価値観も変わるのよ。」
呆れるハーティーと開き直るカルセドニー、そして置いてきぼりの面々が声をあげる。

「あ、あのっ!」
自分に気づいてもらうためだけでアリスはあとの言葉が浮かばなかった。
「お主は…確か、アリスじゃな。うむ、待たせてすまない。心の準備はまだかもしれぬが奴は待ってくれぬ。」
「…出来てます。けど…本当に私なんかが…。」
弱腰のアリスにハーティーは誰かにそっくりな笑顔で萎縮した心を元気付けた。
「鍵とワシが選んだお主なら出来る!まずはワシについてこい!」
そんな彼にアリスは「なんだかこの二人似ているわ」と感じながら多少の臆病風は飛んでいった。それから「そもそも、私がいなくてもあなた一人で十分じゃない。」とも思ったが、空気を読んだらそのような発言が出来るはずもく。というよりアリスが元凶で今の事態を引き起こしているわけで、そうした責任感がとうとうアリスの弱気な感情を完全に振り払った。
「うん!…ハーティーさん、私達はどこへ向かえばいいの?」
アリスの質問にあろうことかハーティーが頭を捻って考え始めた。
「それがのう…奴が今どこにおるか見当がつかんのじゃ。」
「おらが知ってるんだな。」
挙手までして自らの存在感と意見を主張したのはハーティー達が倒しに行かんとする敵の仲間であるアレグロだった。
「おらが連れていくんだな。」
それは実に有りがたいことこの上ないが、そろそろ彼の真意に対する疑念が最高潮に達した。
「貴方の目的はなに?貴方はどちらかというと私達が倒そうとする方の人でしょう?私達が、憎くないの?止めたりしないの?」
「…………。」
しばし黙りこんでから口を開いた。
「…おめぇみてえなやつもまだいる、憎んだりしねぇ。おらはあの方を止めて欲しい。それだけだ。」
さっきまでへらへらとしていたハーティーも笑みか消え真剣な面持ちで話に耳を傾ける。
「「世界を一つにしたい」…それがあの方の願いで野望。でもあの方は「魔物だけの世界を築き上げることで世界を一つにする」と言ってる。そうじゃない、他にも方法はある、だけど仲間は皆あの方の味方だ。気付いてる奴もいるだろうが逆らえねえ。」
悔しさともどかしさを噛み締めたような感情が無表情ながらにも僅かに滲み表れている。
「そこでお前は反旗を翻してやってきたのじゃな?」
ハーティーの問いに首を縦には振らなかったものの否定もしない。
「裏切り者だ言われても構わねえ…誰かが気付かせてやらねえと前の繰り返しになっちまう。でも、おら一人じゃ聞いてもくれねえで殺されるのがオチだ…だからお前らの力を借してくれ!頼む!!」
よほど必死な頼みなのは聞いていてわかるが、なんと頭が地に着くほどの土下座をしたものだからアリスも取り乱す。








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