これ以上彼は何を隠しているのと疑念は更に深まってゆく。でも怖かった。何故なら今よりもっと重大な、それこそ自分と彼との他人という関係に更なる亀裂が生じてしまいそうだから。
他人なら、別にそうなっても構わないだろうに。

「…まことに言いにくいのだが…我は…。」
フィッソンが口を割ろうとしたその瞬間だった。突如凄まじい程地響きが皆を跳ね上げた。
「きゃあああ、なに!?」
「地震ですか!?」
アリスは右往左往に首を捻り、エヴェリンは反射的に頭を両手で抱える。が、地震ではないので長くは続かなかった。
「結界が破れてる…?よほど強力な魔物でも暴れてるのかしら。」
カルセドニーはそう呟いてハーティーの方を振り向く。彼の仕業か知らないが、こちらの魔力が無効なら手も足も出ない。
「心配せんでもワシの仲間が食い止めてくれる。それに今からの儀式にはお前のアレが必要不可欠じゃ。魔力無効化はとうに解除した
。」
するとすぐにカルセドニーが指示をくだした。
「ヘンリー、念のため様子を見に行ってちょうだい。これが終わったら私も行くわ。」
ヘリオドールも事の危うさに駆け足で林の中へ向かっていった。二人の間にもちゃんとしたコミュニケーションと信頼関係はあるようだ。
一秒の時間も無駄にするべきではない。
「…エヴェリン殿。一度しか言わぬからよく聞いておくれ。」
だからこそフィッソンもようやく踏ん切りがついたのかもしれない。魔物の接近に気が気でなかったエヴェリンは今やろくに覚悟など出来ていなかった。その状態の無防備な心で受け止めるにはあまりにも残酷な真実だっただろう。

「我は…淘汰の国へ間諜としてやってきたのだ。」
返ってきたのは耐えられぬ重い沈黙。
「カンチョウ…?どの、カンチョウかしら?」
同音異義語をいくらか浮かべるアリスに、エヴェリンは消去法で複数の言葉からまずありえないと思いつつ一つの単語を絞り出した。
「きっとアリスが考えている中にはないです…。まさかとは思いますが…つまり、スパイ…だなんてこと…。」
否定してほしいと切に願った。しかし、フィッソンは縦に頷く。
「何者かわからぬが、一人の兵士に我の秘密を知られてしまった上に世に知られたくなければ隣国の情報を盗んでこいと命じられた。…我が負う秘密は危険故に従うしかなかった。」
言うならば彼はお宝そのもの。意地でも捕らえた者は秘宝を手にしたと同じ事になる。あとは捕らえた者次第だが、人は大きな力を手に入れたら大体は支配欲のまま行動し、いずれ己が支配されてしまうのだ。そして決まって巻き添えは出る。

だからと言い決して赦される行為ではなく、ただの言い訳に聞こえても仕方がない。
「海辺にまだ「空きの役」がいるからちょうどだ聞いたがよその国の仕組みなどさっぱりわからなかった…だがそれもお主から聞けば良いと軽んじておったのもまた事実。」
表面では詫びている風にも見えるが口調は淡々としている。
「フィッソンさん…そんな…。」
アリスも彼を責め立てることは出来なかった。自分の為ではありつつも自分の意思ではないからだ。
「元々できた人間ではない。恐らく気の遠くなるほどの年月を過ごすうちに我も自堕落になっておったのかもしれぬ…己は可愛いくせして周りの事などどうでもよかった。」
その時、またもや地響き…というより今度は先程の地響きとは比べ物にならないほどの爆発音が轟き空気までもを震わせた。
「チッ…あてになんないわねぇ!フィッソンなに悠長にしてんの、早く!呑気に友達ごっこやってる場合じゃないのよ!」
苛立ちを募らせるカルセドニーと、不安のこみあげるアレグロとアリス。
「………………。」
ただ、一番あわてふためきそうなエヴェリンは下を向いたまま何も言葉を返すことはなかった。
「我の準備できたぞ…否、覚悟と申した方が正しいかな。」
一方ハーティーは軽々とフィッソンに抱きかかえられたがやはり堂々とした満面の笑みだ。もはやハーティーのデフォルトなのだろう。
「カルセドニーは「聖火の大業炎」を使えるじゃろう。アレでワシらを燃やすのじゃ!」
「……………いやいやいや、燃やすのじゃ!て単に言ってくれるけど。」
ドヤ顔のハーティーにカルセドニーは呆気にとられた。






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