「ま、まだ言うか!!」
尖り声で血相を変えてみせた表情で勢いをつけて振り向く。


「ひょえ!!?」
男はすっとんきょうな声を上げて驚きその場に立ち止まった。
「……え?…え、えぇえ!?」
アリスの虚勢は脆く崩れあんぐりと口を開けた顔はなんとも言えない間抜け面だ。
男が驚いたのはアリスのあまりの剣幕にだろうがアリスはそれとはまた違う次元だった。
「あなた…誰!?」
そう。そこにいたのは自分を執拗に追い詰めていた男ではない。そもそも、人間というのも疑わしい何かがそこにいたのだ。まず、服が違う。白い半袖のブラウスの下に手も隠れるほど長いピンクと黒のTシャツを着ている。赤いネクタイ、統一された黒いベストとズボンもきちんと着こなしているようには見えない。片足だけまくり挙げられこれまた色鮮やかな靴下が覗く。靴は真新しいローファー。

「お前こそ誰だよ。」
声もやはり若い。男の顔自体はっきりうかがってはなかったが早着替えしたとも思えない。髪はピンクで三白眼気味の黄色い瞳。そして頭から生えている「茶色く長い獣の耳」。まごうことなくそれはウサギ特有の長い耳でたまに小刻みに動いたりする。つけものならここまで再現は出来ないだろう。

「…貴方に教える名前は無いわ。」
「そンなわけないだろ!」
男…少年はむきになる。その耳があったとしてもあちら側の世界にそのような類いは存在しない。もしかしたら…と思ったらきりがない。生態系よりどのような人物かを探らなければ。

「貴方が何者か教えてくれたら私も教えてあげる。名前だけよ。」
少年はとたんに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「俺は…シュトーレンだ!さんがつうさぎのシュトーレンだ!」
自信満々に甘いだけのお菓子の名前を羅列する。本当に別人のようだ。だが警戒心はまだ解いてはいけない。
「私はアリス。貴方は私を殺そうとしてあの鏡を越えてここに一緒にやってきた男なの?」
あくまで冷静を装って淡々と問う。シュトーレンは小首を傾げた。
「何いってんだ?殺したら死んじゃうだろ?」
それはこっちの台詞だ。男はそれを承知するどころか自ら望んで行動に至ったのだ。と、口には出さず喉に飲み込んだ。






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