「それは昔々時はまだ世界が文明を持ち始めた頃…人が大陸を目指し長き旅の末たどり着いたのは…。」
本当に昔話でも語る老人のよう。しかしこれでは話が肝心の聞きたいところまでに至るのにどれだけ待てばいいのか。
「この方は遥か昔、ジャバウォックを倒して地下帝国に封印した勇者ハンプティーダンプティーだ。」
フィッソンがハーティーを無視して簡潔にまとめてくれた。
「おい、貴様!ワシが話しているというのに!」
話を折られたハーティーはこれ以上にないぐらい癇癪を起こすがフィッソンは反対にとても冷静だった。
「お前はいつも要らぬ前置きを入れる。よい…我が話す。」
すると卵の体が後ろにごろんと倒れては右往左往に転がりながら手足をばたつかせはじめた!
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!ワシが話すのじゃ!わかった簡単に話すからワシが話すんじゃ〜!!」
これがフィッソンのいう世界を滅ぼす力をも持つ魔王を倒した勇者というなら信じがたいし、そうでなくともいかに滑稽だった。皆は驚く間もなく困惑している。
「はいはい。だから見苦しい様を見せるでない…。」
さすがのフィッソンも手のつけようがないらしい。その言葉を聞いたとたん足を一旦真っ直ぐ上に伸ばし前転の応用で勢いをつけて軽々と立ち上がるとまたふんぞりがえった。これではどちらが偉いんだかわからない。
「いかにも、ワシが勇者王ハンプティーダンプティー…略称ハーティー。かつては年季漂わせる勇敢且つ豪傑な剣士だったのじゃが力を使い果たした結果このような姿になってしまったのじゃ。」
いつになく真剣な顔の二人の駒を見遣って再び続けた。
「…………。」
複雑な心境だろう、アレグロはただただ沈黙を崩さずに聞いている。
「そして魔物の群れを「聖血の騎士団」率いて滅ぼした聖騎士ジェイド、元々はひとつの村だった今で言う「地下帝国」を別世界に切り離し封印した魔女カルセドニーとで三賢人と後に呼ばれたのじゃ。」
当のカルセドニーは腕を組んで下を俯いた。
「…僕、ご先祖様や勇者様と同じ仲間とずっと一緒にいたってこと?どうりでなんかおかしいと思った。どうして教えてくれなかったのさ。」
生きていたとしたら何千年の時を過ごしてきたということになる。それだけでも恐ろしいのに普段からなにかと行動を共にしてきたヘリオドールにとっては衝撃も何も、例えば皆は自分の親しい知人や友人が「貴方の先祖の友だちなの」と言ってきたらどう思うだろう。
「聞かれなかったもの。」
と、カルセドニーの一言で終わった。筋が通ってないわけではないが理不尽と言われるとまさしくその通りでもある。
「でも…!」
納得のいかないヘリオドールを今回ばかりは視線だけで黙らせた。

「再び魔王が暴れだした今、このままでは取り返しのつかぬことになる。セドニーならワシを復活させる事など造作無いが、それには生贄の「聖少女の血」が必要なのじゃ。」
そこでハーティーとカルセドニーは状況も把握しきれていない少女、アリスに視線を移した。アリスは頭に疑問符を浮かべるも、両手を胸元で強く握り内股になるなど何処と無く不安を感じていた。

「え…な、なに?」
まさか、自分がここにいる理由はハーティーのいう生贄と関係があるのだろうか。咄嗟にしてはやけに冴えた頭はすぐに嫌な予感を割り出す。
「正直どーゆーものかさっぱりだったんだけどね。でもほら、国を救った少女ってそれっぽいじゃない。」
つまるところ、どうやらカルセドニーによる憶測で散々な目に遭遇しながらこのような場所に連れてこられたというのだろうか。アリスは呆れ絶句する。
「ワシも、お主がただの子供ならばとっくに追い返してたわい。」
案内人は適当でも待ち構えていた者には確信があったのか堂々としている。
「私も、あんたが鍵のことについて話さなかったら途中で返したかもしれないわ。」
続いてカルセドニーがついでがてらに呟いた。
「あの…私は…いわゆる生贄のためにここに来させられたのかしら?」
アリスの問いに、カルセドニーは無慈悲に即答する。
「そうよ。私の独断決行だけど。」
そのようなこと初見だ(もし先に告げたらそれそれで逃げたかもしれない)。しかしよく思い出してみよう、エヴェリン達と遭遇する前にカルセドニーがアリスに「自分で蒔いた種は自分で刈る」といったような台詞をかけたがあれはもしやこの時の伏線なのだとしよう。
騙したとは人聞きが悪いが、アリスは終始そんなことなど知る由もない。
「生贄だなんて嫌だわ!聖少女の血…なによそれ、私どうなっちゃうの?」
エヴェリンも不服の異議を唱えた。






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