卵だからなのか、アレグロの「物を落として手に入れる」やり方がいまいち気に入らなかったのは…と、実行した者ではないアリスが彼の容姿を睨みながら余計なことを考えていた。気が短そうな彼ならアリスの視線で機嫌を損ねてしまうのではなかろうかと思われたが実際は自分に興味があるのだと勘違いしていたのだった。
「お主、ワシに惚れたな?ちこうよっても構わんぞ。」
アリスは目をぱちくりさせる。どう返していいか軽く悩んだ末苦し紛れのお世辞を並べる。
「確かに今まで見てきた卵の中では一番威風堂々としてとてもお美しい顔たちをしておりますわ。」
自分でも何を言っているのだろうと半ば呆れる。
「はっはっは。もう君の眼中にはワシしか映ってなかろう。」
二人称を「君」に変えたのがどうもわざとらしい。
「黄身はあなたの体の中にあるのでしょう?」
試しにアリスが思い付きの冗談で返すと更にご満悦のようだ。
「体は体でも殻だがな。ちなみにアリスとやら、卵はエッグエグとは泣かんぞ。」
なんと先程のアリスのやけくそで叫んだ解答が外にまで漏れていたというのだ。
「あらやだ!聞こえていたのね!」
火が吹いたように真っ赤になった顔を手で覆う。卵は「いい気味」だと笑った。

「久し振りに会ったっていうのに無視しないでよ、ハーティー。」
カルセドニーに名を呼ばれ、気のせいかハーティーの笑みが違う雰囲気を纏って見える。
「ははは…無視などしてないぞ。この世界危機の最中、お主がワシのもとを訪れるのは予感しておった。にしてもまさかあの化物まで連れてくるとはのう…。」
ぎろりと鋭い目付きで一瞥された化物は緊張感なさそうに時折尻尾を揺らしたりしている。
「それはこっちの台詞だわ。なんで、フィッソンがここにいんのよぅ。」
そこに慌ててヘリオドールが彼女に声をかける。
「セドニー、フィッソンはともかくとして勇者王にたいしてその態度は失礼じゃないのかい!?」
「ともかくとは何だ、ともかくとは。」
ぞんざいに扱われたフィッソンは特に咎めるわけでもなく苦笑した。
「あんたにとやかく言われたかないわよ。たかだかが先祖様が関わってるだけで…。」
いつもみたいに冷たくあしらわれ、その頃にはアリスた顔からのほとぼりも冷めていた。
しかし別のところで感情は爆発する。
「さっきから一体なんなんです!?」
皆を振り向かせるほど大声を出しておきながら視線が集まると途端にエヴェリンは身を縮こまった。
「ひっ…すいません!…あの…つい…そ、その…勇者王?とか…よくわからなくて…。えっと…。」
口から出任せを言う癖があるのに本人はいたって臆病なのだから大体こうなってしまう。
「ていうかフィッソンお前急にいなくなって…あ、鍵だ!よかった!」
鬱憤がさぞたまっていた、フィッソンの首からさがっている「自由の鍵」が無事所有者の元へ渡っているのを見ると安堵した。
「アリス…ありがとうございます。本来なら僕か渡しにいくべきとこだったんですが…そういえばシュトーレンは何処にいるんです?」
再会した時はそれほど気にしなかったが改めて違和感を覚える。
「レンさんともはぐれちゃったの。それより、フィッソンさん…その鍵…。」
まだ言っている途中でフィッソンは制止の意味で右手の平を相手に向けた。
「みなまで言わずとも良い。我が片時も離さなかったこの「鍵」自体、本物の模造品にしか過ぎぬのだから…。」
彼の言葉で無反応が標準だったアレグロも含め一同が騒然とした。
そんなはずはない、鍵の持つ凄まじい力を遺憾なくこの目で見てきたアリスとエヴェリンは尚更彼が自分達を混乱させるための戯れ事を宣っているのかと感じるぐらい。でもそんなわけないこともわかっている。

「ちょっと、そんなの私知らないわよ?」
一際険しい表情で詰め寄るカルセドニーに続いてアレグロもまたひどく不安そうだった。
「紛い物にしたら出来すぎやしねえか…?」

小さな腕を組んで唸るハーティーは一通り皆の顔色や様子を見ては深い溜め息をつく。
「やれやれあっさり言ってくれるのう不死鳥もどきよ。だがゆっくりもしてられんのじゃ、先ずは順を追って簡単に話そう。」
と、咳払いを二度しては真顔で語り聞かせることにした。本人は乗り気ではない。

「カルセドニー…お主のこともワシの口から語るとするが良いかのう。」
すると自分のことなのに生返事をした。
「お好きなよーにどーぞ。」
ハーティーはもう一度咳払いし、物思いにでも更ける如く穏やかに顔を緩ませ瞳を閉じた。







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