だがエヴェリンが過度に驚いたのはその事についてではない。後ろを向いたらなんと洞窟はおろか何も隔てるものがなく、前と同じ景色が広がっていたのだった。
「さっきのは一体…なんだったんでしょうか。僕達は…。」
ぼーっと突っ立って遥か先の地平線を眺める。
「んーっ、届かないわ…。」
一方アリスは爪先で立ったり伸ばせる限りの腕を伸ばしたり、はたまたジャンプしてみたりと試行錯誤を練ってみるもその手は空を掴むばかりで葉っぱに掠りすらしない。
「木登りをするにもちょっとねえ、はしたないじゃない。」
何処と無く第三者から見たような客観的な口振り、位置的に頭の上にあるリンゴを物欲しげに見上げる。木登りは得意な方だったがお転婆娘も恥じらう年頃になったのだろうか。

「………。」
それを見兼ねたアレグロがやっと腰を上げた。ヘリオドールはもうぐったりとうつ伏せに倒れて安堵の表情も浮かべない。
「どうした…どれ取ってほしい。」
最高の助っ人にアリスは目を輝かせる。
「リンゴ!…でもオレンジも捨てがたいわ。桃もいいわね…うーん。」
ちょうど、相手が簡単に手の届く距離にほぼ全ての果実がぶら下がっているのだとわかればアリスもつい欲張ってしまう。
「私、さくらんぼがいい。」
「僕はレモンがいいなあ…。」
さりげなくカルセドニーとエヴェリンも便乗した。にしてもレモンは酸っぱくてとても生で食べれるものではないとアリスは思ったが。
「……………。」
生憎レモンだけはアレグロが背伸びしても届かないところになっていた。「取ってくれ」と直接言われなくとも期待の眼差しを向けられたら断りにくい。彼も木登りは出来る。だがこの程度の細い木では重さに耐えきれず折れてしまう。
「危ねぇでどいてくれろ。」
今から何が起こるのだろうと後に引く。まさか拳を入れて真っ二つにするのではとアリスもエヴェリンも警戒した。彼は高く聳える木の前に立ち、大分手加減をしながらチョップをくらわせた。すると木はどしんと重い音を立てたのち小刻みに揺れ、力が加わった衝撃で次々と果物が地面やアレグロの頭上にも落ちる。
「やったー!」
アリスはおおはしゃぎで、カルセドニーとエヴェリンも嬉しそうに転がり落ちた果物を拾い集めた。


「物を落とすとはけしからんッ!!!」
この中の誰でもない年老いた声に叱咤された三人の動きがぴたりと止まる。
「エヴェリンさん…急に声が枯れたのね。おじいさんみたい。」
と言うアリスにエヴェリンは強く首を真横に振った。
「枯れてもこんな威圧的な声は出せません!…いや、そもそも僕じゃないですよ。」
確かに彼が言えた台詞ではない。かといってカルセドニーとアレグロはもっと考えにくい。
「だとすると…。」
四人はヘリオドールの方を向いた。
「ん?なんだい?僕は別にいらないよ?…って、ひゃあ!なんか現れた!?」
呑気な笑顔が一転、目が点になり前方を指差した。疑り深いカルセドニー以外は素直に前を向く。
「まあ、お久しぶりね!」
アリスの言葉からヘリオドール自身が逃げるための隙を作ろうとした罠だと見張っていたカルセドニーもアリスのリアクションで彼の言葉に信憑性があると受けとり怪訝な顔で確かめる。

「久しいほど離れておらぬではないか、アリス。」
そこには例の豪華な衣装に身を包んだフィッソンと、足元に謎の物体が仁王立ちしていた。白くて丸い卵形の物体、いや。卵だ。どこからどう見ても卵なはのだが、大きさはフィッソンの膝下ぐらいまであり、人間の目と鼻、口がついている。胴はなくアンバランスに細い手足が生えており、(胴はないのに)シンプルな服や靴まで履いているのだ。ネクタイらしき布を首(と思われるところ)に巻き付けたりと独特のファッションをお洒落にきめていた。

…そうではない。

これはつまり、なんなのだろう。

「卵が人間のような姿をしているわ!」
率直な感想を大袈裟にアリスに卵らしきものはふんぞり返って(一応)上から目線で見下ろした。
「当たり前じゃい!ワシはこう見えて昔は人間だったのだからのう!」
嗄れ君の低くもしっかりとした声。先程三人を叱ったのはこの卵らしきものだったのだ。








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