「でもあいつ、そんなこと一言も…!」
エヴェリンの言う「あいつ」と、アレグロと出題者がそれぞれ口にした「不死鳥」と一致するかは不明だった。
<あらやだ、ずっとそばにいるのに案外知らないんで…おっと。>
「仕方ねえ。フィッソンは昔からそんな奴だ。」
二人の会話から同一人物だということがうかがえる。たいしてエヴェリンは一言。
「どうせ、他人ですから。」
と呟いた。言い聞かせた。

<それでは第五問ですわ〜。大昔、ジャバウォックを倒したのは三人とも言われてますの。そのうち、今も生きているのは何人?>
これは相対の国の歴史にまつわる問題だ。
「一人だよ。僕のご先祖様だもん、今は勇者様のみ、生きているんだよ。」
<…………。>
音沙汰無し。壁は開きそうにない。しかしまた、彼のご先祖がジャバウォックを倒した勇者に関わっているのならば、アレグロと対峙した時のあれは今もなおその血が濃く受け継がれている証拠なのだろうか。
「バカねえ!二人よ二人!そうよね?」
カルセドニーの答えもやけくそかと思われたが、道を隔てるものは消えてなくなった。正解だ。

真実が明らかになるたびに新たな疑問が増える一方だが。

<うふふ…そうですわね。では、第六問!>
一体いつまで続くのかと、途方に暮れそうだった。
<卵はなんて言って泣くでしょう。>
ここで急になぞなぞに切り替わった。出題者ことアドゥールCは質問により時々こちらをからかっているみたいで、耳を済ませばクスクスと小さな笑い声が聞こえてくる。
「卵が泣くわけないわ、なめてんの?」
「それ…ひっ…たら元も子もないよ…っ。」
ヘリオドールは酸欠に近い状態になっていた。まだマシな方だ。アリスもエヴェリンもただ走り続ける機械のようになりつつある。アレグロだけは延々と走っていられそうだったが。

「卵は…egg…卵はegg…。」
いままでの問題の流れから妥当だとしてもここまできたらもう惰性は通じないのだろうかと不安になりつつアリスは
譫言を呟く。もう誰も彼も限界なのだ。嗚呼、ここで迫り来る恐怖と耐えがたい苦痛を最期に死んでしまうのか。ひょんなことで迷いこんだ異世界で未練を残したまま死んでしまうのか。死なば諸とも実にあっけないと思う。だが諦めたくないし、おちおち死にたくもない。この一言で生涯を終えたくないが、一割でも可能性があるのならそこに奇跡を信じたい。ありったけの祈りと希望を賭けて半泣きだがやけくそにアリスは叫んだ。

「た…た…卵が泣いたわ!エッグエグーなんつって〜〜〜!!!」
その瞬間、壁に歯車の形をあしらった複雑な紋様の魔方陣が現れた。そして、シャッターみたいにガラリと開かれる。なのに、道はない。

「え…うわああああ!?」
急に宙に浮いた不思議な違和感を覚えた束の間、重力に忠実な身体はそのまま勢いよく地面へと投げ出され折り重なるように落下した。

「魔力が効かなくなるなんて…。」
常に宙を浮いていたカルセドニーも壁の向こうに入った途端に勢いよく杖と共に落ちたが、だからこそ彼女はまだ「その程度」で済んだといってもいい。ゆっくりと立ち上がり服についた埃を叩き落として振り向いたら後ろの光景に思わず絶句した。

上からアリス、エヴェリン、アレグロと、ヘリオドールが呻き声を上げながら皆の下敷きになっている。土埃舞う中で見事なまでの人の山がそこにあった。早速アリスが寝そべったまま上半身だけ起こして辺りを見回す。
「びっくりした…ここは…何処かしら?」

皆は洞窟の外に出た。青い空、暖かい風が心地よい。幅の広い葉をつけていることから
入る前とは違いこちらの木は闊葉樹
で、例えるなら絵本でよく描かれるよう。
しかし、ひとつの木の枝からリンゴ、桃、レモン等の沢山の種類の果実がぶら下がる様はまさしく奇妙そのものだ。
「お…美味しそう…とても…。」
それにしてもどれも食べ頃に熟していて、ちょうど空腹だったアリスはなんとか降りて、蜜に集まる蝶のようにふらふらと木の前に誘われていく。
「う…僕達…助かったんですか…よいしょ…わ、わあああ。」
(多分)もっとも大きな絶叫を上げたエヴェリンも自力で降りようと足を伸ばすも、下に重なった二人を気遣っていたら踏み外し、転げ落ちてしまった。
「あいたたた…、ん?おかしいな。結構高いところから落ちたと思うのに腕が痛くないなんて。あ、あれえ!?」
骨折した腕に強い衝撃を与えたら絶対なんともないはずがない。痛いといえば先程打った背中だけ。本来は逆かあるいは両方なのに。







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