パネルは消えることなく「正解」と言いたげに赤い輪の光をチカチカさせた。
「――――…なぁるほどねぇ。」
すると近くをうろうろしていたヘリオドールにも犠牲…もとい、証明してもらおうと彼を呼び止めた。
「ヘンリー!ストップ!」
ヘリオドールはかなりの動揺と困惑を見せる。彼のいるパネルも間も無く消えてしまいそうだ。なな何言ってるんだよ!僕に死ねっていうのかい!?」
「うん!と言いたいとこだけど残念、死なないからじっとしてて。」
間髪いれず不条理な命令を下した。
「いや、死ぬから!…うん?うんってなんだようんって!!」
一筋縄で行かないことも予想していた。だからこそ論争に夢中にさせる手に出る。
「死にやしないんならちっとは世のため私のために役に立ったらどうなのよ!」
手に出るといったら策略のように聞こえるが、ただ日頃の鬱憤を吐き出しているだけの気もしてならない。まんまとカルセドニーに乗せられたヘリオドールも穏やかではない様子だ。
「世のために散々貢献してるつもりだよ僕!募金だってしてるよ!大体君はいつもいつも人使いが荒すぎる…。」
滅多にお目にかかれない彼の激昂も、ふと足元を見遣ると頭にのぼった熱い物も段々と冷えていく。
「なんだいこれは。赤丸?落ちないよ?」
それにより直感的な感が冴えて絶対的な自信に変わる。

「クイーンはルークとビショップの二つを合わせた動きをするんだわ。まさしく私達のための仕掛けね。」
そうとわかればカルセドニーは自分とヘリオドールのいる位置から瞬時に安全区域を割り出した。
「アリス!前へ三つ進んで。そこのベレー帽は左に二つ。アレグロあんたは…えっと…右斜め前!そこが「正解のパネル」よ!」
三人は命がけなのだ、信じたいのに足が動いてくれない。いくら土地勘のある彼女の指揮でも本当に信じていいのだろうか。
「…………。」
アリスは信じた。それも立ったらすぐカウントが始まり一分ももたない床もカルセドニーとヘリオドールの居る所は長い間もっていたのを見たからだ。それにどのみちなにもしなければ落ちてしまうのだ。ひとつ、ふたつ、みっつ進んで立ち止まる。つられて二人も指示されたパネルへ移動した。

青い光が赤に変わった。それっきり、パネル全体が光ることもなくしばらく形態を維持する。
「やったの…?」
ヘリオドールが怖々と下の燃え盛る溶岩の海を覗く。次の瞬間、周りのパネルが突如前触れもなく崩れ落ちていった。こちらの精神も削ぎとられる様を表しているようだが、「落ちない正解のパネル」は皆がいる地点を含め落ちることはなかった。最終的に残ったのが縦、横、斜めの端から端までの直線状。

何かに似ている形をしている。と、アリスが思った矢先のこと。パネルが一際眩い光を灯し、皿には枝分かれして伸びていきそれぞれから放たれた光へと繋がる。
「まるで雪の結晶みたいね。」
とアリスの独り言に呼応(というわけではないが)して、なんと溶岩が一瞬にして雪崩の如く速さで凍り、あっという間に全面を銀盤へと姿を変えていったのだ。無くなった扉も最初見た通りに戻っている。
「……なにが起こったのでしょうか…。」
急に冷たい風が露出した肌を撫で寒さゆえに身を震わせながらエヴェリンは扉を茫然と見つめている。彼に対して身動きも表情も変えないアレグロはもはや石像にも見えてくる。

「へっぶくしゅん!!ふえぇ〜…女王てこういうことだったんだねぇ。」
溶岩の海だったものをいまだ覗きこむヘリオドール。派手なくしゃみにもっていかれて誰も聞いちゃいなかった。
「なにがシルクロードよ。クソ簡単じゃないの。」
とカルセドニーは言ってくれるが、ほぼ彼女の独断専行により万事解決したといっても過言ではない。

『ケケケケケ、コングラッチュレーション!!』
例の声が今度は空中から聞こえた。赤いビー玉に柊の葉っぱに似た羽がついており、宙をふわふわと浮いている。おそらく、声の主はそいつだが運悪く側にいたアレグロに片手で捕まえられてしまった。
「…なんだこいつ、虫か?」
『虫!虫トイワレタラ虫!オマエラハ虫ケラ!!ケケケ…ギエッ!』
羽をつままれ宙ぶらりんの奇妙な虫をカルセドニーは真顔で奪い取る。そして顔を全く変えずに口が減らない虫の羽をむしりとる。
「あんたには虫酸が走るのよッ!!」
氷の地面めがけて叩きつけるよいに勢いよく落とした。
『ンギャハアアアアアア!!!』
小さな体に合わず壮大な絶叫と共に落下していったがやはり虫は虫程度の軽さしかなく、地面に身を打ってもこの距離ではおおよそ聞こえない。哀れな最期だ。
「あーすっきり。寒い寒い…早く進むわよ。」
手をはたき清々しい笑顔で扉を開けるカルセドニーを、皆がどんな視線で見ていたかなど本人は知らないし知ろうとも思わなかった。








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