定柱のような先のとがった岩が天井に生えているが、中はそれほど狭くも低くもない。ただ、その先から謎の水滴が頭の上に落ちてくるのはとても不愉快だ。足場も悪く、歩きづらい。誰がこんなところに人が来ることを想定してつけたのか知らないが、角灯が所々に置いてあった。おかげで視界は鮮明で角灯が照らす暖色の光が緊張感を多少和らげてくれる。

「ひええぇ!?」
そんな中で一人、過剰に反応するエヴェリン。よく見たら一行の中で露出している部分が多いのは彼だ。肩が濡れている。
「もうそろそろ慣れたらどうなの?」
後ろを歩くアリスも何度も見る光景にんざりしていた。彼女の手は…男の尻尾と思われる毛の塊を掴んでいたが、当の本人は全くの無反応だ。
「……僕と同じ動物好きかと思ったんだけどただのフェチじゃないのかな。」
「知らないわよそんなの。」
ヘリオドールの耳打ちを険しい顔を崩さないカルセドニーは適当にあしらった。噂をされてるにも関わらずアリスは尻尾に夢中だ。
「バンダスナッチさんは犬?熊?尻尾触られても平気なの?うふふふ…ねえ?」
今度はエヴェリンが引き君に眺めている。
「アリス…涎出てます。」
「はっ…私としたことが。」
大抵の動物は尻尾を触られる行為に不快感を示すためこれほどまで堪能できたことはない。しかし、そこにいつもの気の強くしっかり者のお嬢様の姿はない。慌てて袖で拭う様もなんとあられもないことか。
「おらの名前はそんなもんでねぇ。ハ…いや、アレグロだ。覚えてくれろ…。」
しかし、籠るような低い声は側にいるアリスでさえ聞き取ることが出来なかった。

「白妙。」
突如、カルセドニーが意味不明な言葉を漏らす。
「…ハクミョウ…?」
まさか一番前を歩いている彼女の声の方がはっきりと聞こえるだなんて。アリスは口に出してみるもやはり、意味がわからない。
「村を捨てて逃げたおらに名乗る資格は…待て。なんで昔の名を知ってる?おめぇは何者だ?」
隣でヘリオドールも難しい顔をしてる中、カルセドニーは白々しい素振りを見せる。
「あらぁ?テキトーに言ったら当たっちゃったわ!ごめんなさいねアナグロさん。」
問いたいとは他にもあったが、ろくに相手にされそうにないとなんとなく目に見えていた。
「アナログさん?」
更にアリスは聞き間違えてしまう。
「…アナログでも穴蔵でもねえ…えっと、アレグロだ。」
似たような単語があっちこっちからひっきりなし飛んでくるせいで本来の名前が正しいのかどうか混乱したが今度こそアリスには伝わった。そのまま五人は洞窟を奥へ奥へと進んでいく。今のところ異変は感じられない。
「やっぱ気のせいだったのね。罠なんてないじゃない。」
洞窟に入る前の疑心単なる勘違いだったらしい。皆は分かれ道にさしかかった。
「道が二つにわかれているわ。」
見たまんまをアリスが呟く。
「そうね、二つにわかれているわね。目的地か、地獄か。…こっちよ。」
復唱しては物騒な言葉を言いながら迷わずカルセドニーは右の道を選んだ。案内人だけあって毅然たる態度はとても頼もしい。曲がってやっとその道の向こうが見通せるわけだが、カルセドニーとほぼ同時に曲がったヘリオドールは「ただの道」なはずなのにこの世の絶望を一気に集めたぐらいの悲鳴をあげた。

「地獄じゃないかあああああ!!!」
素早くカルセドニーの後ろに隠れる。なんとも情けない…と言いたいところだが、無理もない。道の奥にいたのはアリス達を恐怖に陥れたあの巨大な花とそこから下が四肢、胴体となっている異形の化け物だった。
「な、なんですって!?なんでこんな所に?」
アリスは一層警戒心を高めた。エヴェリンは目をひんむいて口をぱくぱくさせている。当時と違う点は戦闘に長けた兵士(一人は使い物にならない状態だが)二人いる事だが、実際に襲撃に遭った二人は「あれ」に畏怖の念を抱いていた。
「僕…触手とか苦手で…イカとかタコとか生で見るのは無理なんだ…うぅ、気持ち悪い。んぎぇっ!!」
かがたがたと震える大の男にカルセドニーの容赦ない蹴りが入った。
「あんたの方がよっぽどキモいわ!」
出会った当初から押されたりと理不尽な扱いをもろに喰らってきたが、今のは妥当だとアリスは壁に身を打つヘリオドールを見つめながら感じた。







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