何を一体どうしたのか、アリスは男の方へ大股で歩み寄った。
「大変!あなたその傷…思ったより重傷じゃない!」
彼の横脇、矢が刺さっていた箇所だ。手当てといってもアリスからしてみればほんの気休め度包の包帯は解れかけていて目も背けたくなるほど痛々しい生傷が見え隠れしている。
「……ジュウショウって、なんだ?」
事の重さを理解してない相手に早くも埒が明かないと苛立ちアリスは古い包帯を強引に外す。
「消毒液なんてものあるわけないわよね。近くに水でもあれば洗い流せるのに…きゃん!」
一人焦るアリスの頭の上に何か固いものが落下した。
「これはなあに?」
拾うとそれは白いプラスチックの小さなボトルと同じく白いハンカチ、そして新しい包帯だった。
「消毒液アンド包帯プラス布みたいなの。私の魔法は万能なのよぅ?ヘンリーの部屋にあったやつを「喚んだ」の。」
万能ならその魔法で傷を治癒することもできたのではと、あえてアリスは口にしなかった。
「え…ていうか、なんで僕の部屋にある物を把握してるの!?」
ヘリオドールには特に何も感じなかった。急いでアリスは手際よく応急措置にあたる。実際、学校の授業で教科書の文を流し読みしただけの知識のみで経験はなく、故に自信もなかった。それでもなんとか形にはなった。

「ふぅー…なんとかなった、多分。」
腹部は綺麗に包帯で幾重にも巻かれているガーゼがなかったので悪いとは思いつつハンカチを破いて代理に使用した荒業を除けば自身の中ではほぼ完璧な仕上がり具合だ。
「あ…ハンカチ…。」
そーっと顔色を窺うがヘリオドールは気にするどころかむしろ彼女に感心を抱いていた。
「いーよハンカチは使い捨てだし。にしても凄いよね、君の行動力というかなんというか…。」
エヴェリンは言葉も出なかったぐらい驚いている。真反対の性格のアリスの行動はやはり突飛にしか見えない。
「おかしなことを言う人ね。傷ついてる人をなんとかしようとする事が凄い事だなんて。」
とはさすがに皮肉っぽく聞こえてしまうおそれがあると心の中に閉じ込めた。一応道具の提供人でもあり、ヘリオドールに悪気はない。
「…うまく出来たことについては誉めてほしいわ。」
油断したか、つい言葉に漏れてしまう。が、誰にも聞こえてない。
「だいぶ時間くったわねぇ。ちょっと、動けないわけじゃないんでしょ?」
カルセドニーが仁王立ちでこちらを睨む。案内させてもらっている以上、足止めを食らわせるわけにはいかないのは重々承知だがどうしても気がかりで心配そうに男の方を振り向く。しかし、男はまるで何事もなかったかのように平然とした無表情で腰をあげた

「…このとおり 、ピンピンなんだが…。」
傷口に消毒液がかかってもびくとしなかったあたりからもわかるように男の痛みによる耐性は普通の人と比べてきわめて強い。だからといって放っておけばいいものではなく、おかげさまで安心して動けるようになった。
「よかった!一安心ね。」
アリスはほっと胸を撫で下ろし安堵した所で皆の所へ駆け足で戻る。
「………まだおめぇみたいな奴がいるなら、尚更諦めるわけにはいかないんだな…。」
誰が聞いても意図が読めぬ一人言を呟きながらアリスの大袈裟な手招きに躊躇いつつ再び彼らの元に加わった。
「借りは返す…あ…ありがとう…。」
「んじゃまあ、改めて行くわよ!!」
男の言葉はカルセドニーのやけくそに言い捨てた大声により掻き消される。
「……………。」
だがわざわざ二度も言うのは照れ臭いらしい。何も言わず黙りこんだ。
「うふふ、どういたしまして。」
どうやらアリスにはしっかりと届いていたようだ。無垢な子供の笑顔は久しく直視できずに顔を逸らせる。
「どーせ汚れ役はこの私なんでしょ。全く、金にもなんないんだから…あら?罠が稼動してる…?」
ぶつくさにぼやいたと思いきや眉尻を上げたまま不審にと見えない奥に目を凝らした。ゆ
「どうしたの?セドニー。」
隣に並んだヘリオドールが顔をのぞく。
「んーにゃ、なんでもないわ。どのみち私がいれば解決することよ。」
そうとだけ言ってさっさと中へ歩き出した。
「…お金のことしか考えてないはずなのに、よくわからない奴だなあ〜。」
目は悪いくせにやたら地獄耳なカルセドニーはひそひそ声に近い言葉を最初から最後まできちんと捉えていた。
「ハンカチは使い捨てっつーあんたの神経の方がさっぱりわからないわ。」
ヘリオドールは返す言葉を見失う。アリスは何故かわざと男の後ろに付き添って、一行はようやく洞窟の中へ一歩進んだ。









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