除け者にされたヘリオドールは情けなく乾いた枯葉の絨毯に倒れる。そんなこと、お構いなしだ。
「風の噂で聞いたのよぅ!この国のどこかにいるって…でもまさかこんなところで会うなんて!サイン貰おうと色紙買ったの、持ってきてないけどね!」
熱い視線と凄まじい威圧感に圧倒され、アリスは一歩後退りするが手を握ったまま相手もついてくる。確かに、 戦場に色紙を持ち込む兵士など前代未聞だ。
「あの…私そんなに有名なんですか?」
特別でもないごくごく普通の一般人が知らぬ間に別の世界で英雄みたいに扱われるなんて事態の対処できるはずがなく、戸惑いながらおずおずと聞く他ない。
「有名もなにも聖少女アリス様様じゃない。ま、サインはおいといて…しっかしほんとこんな奇跡もあるものねえ。誰もが英雄望む頃にやってくる。」
手を離したカルセドニーは偶然を感慨深く呟く。アリスは話が途端に見えなくなった。そんな彼女の胸中をまんまと見透かす。
「見ての通り、相対の国は突如大量発生した魔物の襲撃にあっているの。…原因は、誰かが「地下帝国」の封印を解いたってことは扉が開いていたのを見たらわかるわ。」
信じられなかった。ついさっきまで祭りに沸いてはとても賑やかで平和だったのに。賑やかなのは変わってないが、こうしている間にも次々と兵士が負傷を負って倒れたりしている。二人ものんきに話している暇などないはずだ。
「ほんと突然だったもん。ここは北の方だから他の所はもっと侵略を受けてるかもしれないってことね。散り散りになった兵士は各所であんな風にやっちゃってるってわけ。」
途中で面倒になったのか説明も適当になる。
「じゃあもうゲームなんかやってる場合じゃないよね!」
「出来なくなったんだよ。」
ずっと座り込んでいたヘリオドールがやっとこさ腰をあげる。服には枯葉や土埃がついていたが払いはしなかった。
「どういうこと?」
アリスが怪訝な顔をして彼を見上げる。当たり前の事を復唱しているだけのように聞こえるのに違う深い意味もありそうな気がした。
「チェスはどうやったら自分の勝ちになる?」
勿論アリスはご存知であった。カルセドニーの横槍に自慢気に答える。
「相手のキングをチェックメイトするのよ。」
だがどちらも正解だと言わない。また次の質問を投げ掛けてくる。

「…キングがいなかったら?」
その問いにはさすがに即答は出来なかった。しばし適切な答えを考えるも、一つしか思い付かない。
「そんなのチェスにならないじゃない。」
その通りだ。二人もあげ異論はない。カルセドニーはむしろ、わざと彼女にそう言わせたのだから。
「…赤と白の王様も何者かによって殺されていたの。誰も見ていない間だったからわからないけど情報によると全身真っ黒こ…。」
彼女の言葉が(実際無関係だが)触れてはいけない禁忌だったみたいにこっちを目掛けて魔物が炎を吐いてきた。
「ヘンリー!!」
略称で呼ばれたヘリオドールはこれといって慌てる素振りはなく向かってくる炎に盾を構えるのみ。アリスは今すぐにでも胸ぐらをひっ掴んで正気かどうかを問い詰めたかった。あんなものでは防げるわけがない、自分達も真っ黒焦げになってしまう!

だがしかし、炎は盾に触れた反射して威力を保ったまま魔物に直撃した。火だるまになった得たいの知れない黒い塊がそばでもがくものだから熱気と光に顔が火照りそうだ。
「すごい…。やっぱりだてに兵士さんなの…。」
アリスが感嘆の言葉を呟く。残念ながら小声なのと周りの雑踏が煩いため聞こえなかったようだ。
「セドニー、ここじゃダメだ…場所を変えようよ。」
同僚でもお互いあだ名で呼びあうほど仲は良いらしい(アリス視点である)。彼の提案には一同も賛成だった。話をただ聞かされるだけのアリスも同じ。
「サボってるみたいに見られちゃうのもやだし…移動するわよ。ついてきて。」
カルセドニーは早速先頭をきり、戦いが繰り広げられている区域とは反対の方向へ歩き出した。出会い頭にアリスにサインまで求めようとしていた彼女は嘘だったのか、扱いの変わり方が激しかった。
「なんだか、私すごく混乱しているわ。」
後をついていきながらアリスが心境を述べる。情況を理解できていないのに事は急激に進むのだから。
「誰だってそうだと思うよ。でも一番パニクってんのは多分女王様なんじゃないかなあ。」
いたって間延びした口調でヘリオドールが
話しかけてくる。アリスの背後に並んら歩く彼の手元にはいつの間にか槍が戻っていた。
「可哀想…愛している人が亡くなるなんて。」
同情するアリスにカルセドニーが冷たい言葉で返す。
「一緒にいるからラブラブとは限らないわよぅ?どっちも政略結婚で無理矢理くっついただけだもん。」
心ない言葉に黙っていられなかったアリスは一言物申そうとしたが、「政略結婚」など知らない単語が出てきてそっちの方を気になった。
「政略結婚てなにかしら?」
しかしそれにたいしては誰も答えなかった。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -