「にしてもだ。シフォン、シュトーレン、ガナッシュ…なぜシュークリームという名前の人物はいないのだ。」
一人は自分が名付けたにせよ、生まれ変わっても同じ国のお菓子が名前なのはたまたまなのだろうか。一方シフォンは別の名前を持っていた。どこから今の名前をつけられたのかはもう覚えていない。
「…さて?君はどうしたいんだい?」
本来なら可愛らしい少女の顔が時折道化のように歪むのはあまり見て良いものではない。慣れていたが。
「どうしたいんだい…って、何が…うわっ!?」
すぐ目の先に鋭い羽ペンの先が光る。思わず後ろに頭を引いた。
「しらばっくれるんじゃないよ。アリスはいずれ必ず帰らなければならない、それは彼女はもともとこの世界の住人ではないからだそれはわかっているだろう…が、シュトーレン、彼をどうするつもりだ?」
悪戯に微笑みながら上目使いで見つめる(どちらかというと睨み上げるのほうが妥当かもしれない)。これほどまでに嬉しくない上目使いも珍しい。

「どうするも何も…いくら殺人鬼とはいえ彼には彼の人生が…。」
「あいつにもあいつの人生があるんだぞ?」
口角を更に上げる。シフォンは口を濁して視線を逸らした。
「だが…生まれ変わったとしたらもう…その…なんだ…彼は実質居ない事に…。」
そこを一歩、ジョーカーが詰め寄る。
「淘汰された君達と違って、今現在どちらも生きている状態にある。私の力を以てすれば二人存在を分離することもできるが?」
またも一歩、大股に詰め寄る。さすがのシフォンも後退りをするほかない。でも黙ってばかりもいられなかった。
「両方消してくれたら構わないだろう?気付いたんだ、元に戻した場合アリスはその殺人鬼とやらに殺されてしまう。だから…。」
「向こうの世界のアリスは君と無関係だし生憎そんな残酷なことは規則的に私には実行不可能である!」
のそう言い切った途端ジョーカーは足を止めた。喋ると同時に体がここまで動くのは一体どうしてだろう、落ち着きがないどころの物ではない、これは毎回思うことである。
「………心遣いありがとう、ジョーカー。でも僕の答えはやはりひとつだけだ。あの時下した判断を正しかったんだ。」
肩の力をすっと抜き、表情も穏やかさを取り戻していく。迷いの消えた、そんな顔だ。

「正しかった…ねぇ。」
相手の反応が薄くなったのに面白みをなくし、羽ペンを下げ前のめりの背中を伸ばした。しまいには人を散々扉の近くまで追い詰めておきながらその場でひらりと背を向ける。
「そうさ、この世界は相応しくない。彼に似合う、彼を当たり前に迎え受け入れてくれそんな世界で生きるべきなんだ。」
急に饒舌になりだしたシフォン。心の中、話を解ってくれていると勝手に思い込んでいるが大きな油断だった。
「別人だと意味がないだろ。」
たった一言でシフォンは論破された。
「……どっちにしろシュトーレンにはかわりないじゃないか…。」
形勢が逆転したかと思いきやそれも束の間。立場上でも論説でもジョーカーにはかなわなかった。

「私は深い干渉はしない、助言はすることがあれど絶対などとは言わない。故にえて言わなかったが…君は間違えている。もし気付いてないのなら、教えてあげよう。」

まるで合図だったかのように、シフォンの後ろの扉がゆっくり開く。驚き、反射的にシフォンは体ごと振り返った。幻でも見ているんじゃないかと錯覚した。入ることが出来るのはジョーカーが招き入れた時でしか不可能で、この場所を見つけることは絶対に無理だとも断言できる。
アリスが通ったあと、きちんと入り口は閉じたのはこの目で確と見届けたので後をついてくることも出来ない。ジョーカーはずっと自分達と会話をしていた。彼が怪しいのはいつも通りだが特に変な動きもしていない。

つまり、有り得ない。有り得るはずがないのだ。

ましてやなんの力も持っていないただの野うさぎなど、もってのほかだ。








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