「最悪だ…俺としたことが…。」
強制テレポートたるトラップを仕込んだ落とし穴にうっかり足を踏み入れてしまったスネイキーは一人、全く知らない土地に飛ばされてしまった。
久しく新鮮な空気を吸い、暖かい風が頬を撫でるのがどこか擽ったい。
「何処だここは。あーもう…。」
錐に似た何かを柔らかい地面に突き立てておきながら辺りを見渡す。白い石畳に囲まれて、その中では様々な季節の花が一度に咲き乱れていた。色鮮やかな極彩色の絨毯が広がっているようで、遠くの街も見渡せ空も白い雲がぽつりぽつりと漂っているものの晴々とした青天白日。これを楽園と言わずしてなんと呼ぼう。
「気持ち悪…。」
しかしながら花の香りが強くて吐き気を覚える。綺麗な風景も台無しだ。

「マジ吐きそう、マジ無理。でもせっかくだからちょいとお持ち帰りしよう。お墓に供えるやつはどんなのがいいかな。」
長い眠りから目を覚ましてから家にも戻ってない。スネイキーの家族は自分がそうなる前に皆も家に戻れずもっと永い眠りに
ついている。自分が先に家に戻る前にどうしても顔を向けたかったのだ。

「あれとかいいな〜。名前わかんないけど。 」
そう言ったスネイキーの目に留まったのは、花弁の大きな真っ赤な一輪の花だった。茎は土の中に埋まっている。石畳を越えて根本を両手で掴んだ。
「んっ……あ?…抜けるどころかちぎれもしない!」
思いの外びっしりと根を奥不覚まで下ろしており、持ち上げようとするたびに土が微かに盛り上がる。びくともしないならまだしも手応えを少しでも感じたのなら手を離したくなかった。片足を踏ん張り、全身の力を振り絞った。
「このやろう…あと、もうちょい…!」

暫くの間奮闘していたが、土から半分姿を現したのはうねり曲がった根ではなく例えるなら大きな茄子みたいな歪んだ丸い形状をした色の何かだった。
「なんだこれは…うわっ!」
そこからは案外楽々と抜けたが、災難なのはこれからだった。見たところ口もついていないはずの謎の緑色の物体が耳を潰すかのような凄まじい大絶叫を発したのだ。騒音どころの物ではない。世界中に響き渡りそうだ、比喩でもなくそのままの意味で。それよりもとにかく、五月蝿い。

「ギエ゙エ゙エ゙ェ゙エ゙ェ゙ェ゙エ゙エ゙エ゙エ゙ッッッ!!!!!」
「うわああああああ!!!」
スネイキーは手に持ったそれを何処か遠くへ放り投げる。奇声を上げながら放物線を描いて軽々と飛んでいった。

「…あれは…新手のモンスターなのか?」
その時、背後に人の気配を感じ取った。そう近くはないが、警戒心を高め後ろを向く。そこには腕を組んでこちらを血相変えて睨むリグレットがいた。
「いつからそこにいたの?」
スネイキーの問いには答えなかった。何故か知らないが腹が煮え繰り返るほどの怒りに満ちている。
「…貴方ね。信じられない!まさかマンドラゴラをそのまま抜くだなんて!!」
マンドラゴラ、別名「恋なすび」。薬の材料としても重宝されるが抜く際には苦痛のため絶叫を上げ、最悪採集者を死に至らることもある。相対の国では度々見掛けることがあるので珍しい植物ではない。店でも売られている。
一方スネイキーは数百年近くの間を地下に封じ込められていた以前に、地上に出ることが滅多になかったため時代の流れ、及びかなり世間ずれしていた。
「マンドラゴラってなに、おばさん。」
「…貴方にはまず年上に対する口の聞き方を教えないといけないわね。」
悪気はあるのかないのか、単純な質問は後の失言のせいでしばらく説明ではなく説教を受けるはめになった。




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