「つってもどちらの女王様も慎重だ。勝ったらいきなり占領するんじゃねえ、交渉権を狙ってんだろ。」
そのまた隣の老人が横から入る。男性はうんうんと頷いた。
「当然だ。戦争にもなってみやがれ…ウィック…二度と美味い酒が飲めなくなっちまう。」
いつしか二人だけで世間話を始める。話し相手を取られてしまったアリスは機嫌を損ねた。

「いざとなりゃあ酩酊の国がなんとかしてくれるさ。死ぬほど酒も飲めるぜ、ハハハ…。」
冗談混じりに愉快な笑い声混じりで老人はそう言った。誰も気にしない彼の話、だがアリスは「隣国が酩酊の国」だという先入観が頭に凝り固まっていたため大変おかしいと感じた。
「酩酊の国は隣の国でしょう?」
アリスの問いに男性も老人もしばし目を丸くした。
「なああにいってんだい、酩酊の国は同盟国だぜ?お互い助け合いの関係さぁ」。
とアリスがあたかも訳のわからない事を言っているかのように間延びした癪に障る口調で返したのを男性がフォローする。
「お嬢ちゃんはよそ者なんだよしゃあねえだろ。」
それを知った老人が「こりゃ失敬」と己の額を叩く。そして続けた。なに食わぬ顔で言いのけた。



「隣国つうのは南の…ほら、淘汰の国だよ。最近オープンになった。」



アリスの思考は一瞬だけ停止する。
「オープンて、ちょっ、店じゃねえんだからよぉ!ガハハハ…。」
「ど、どういうことなの!?」
すぐに頭が冴えきったアリスは信じられないと言わんばかりに形相を変え、男性の腕を思わず力任せに振った。空の瓶が掌からすり抜け足元に落下しガラスの破片をぶちまける。
「あっ…このガキ俺の酒瓶をッ!!」
男性は頭に何かが湧き沸騰するような熱さに顔を赤くさせ、周りを気にすることなく空いてる手を上げた。しかし、その拳は後ろの人物によりしっかりと掴まれてしまう。
「見苦しいぞ。」
その人物にひどく仰天し、男性の目が泳ぐ。
「…え…ッ、不死鳥の…なんで、えっ!?熱い熱い熱い!!!」
慌ててなんとか強引に振りほどく。手首がやや赤みを帯びていたが一体何をしたのだろうか、いや、アリスにとって今やそんなことはどうでもいい。先程の騒ぎによりもっと周りが騒ぎ出したことも眼中になかった。

「フィッソンさん…なんで?貴方も…知ってたんでしょう…?どうして、あのとき教えてくれなかったの…?」
掠れていく弱々しい声、しかしフィッソンはただ重苦しい表情で首を横に振るだけだった。
「どうしましょう…どうしたら………どうしたら……そうだわ…!」
耐え難きもどかしさと焦燥感は衝動的に足を動かす。少女の脳は軽い錯乱を起こしていた。何が一体どうしてここまで感情を揺さぶっているのかわからない。

「なあ、淘汰の国がどうなるんだ?アリス…。」
彼女の肩に手を置こうとするシュトーレンの指は空に触れた。駆ける足、ひたすらに。

根本的には「大切なものを守りたい」。だが果たして彼女を突き動かす想いはそんな単純、純粋なものなのだろうか。その様を「自分の物だと思い込み独り占めしようとする我が儘な子供」と捉えることだって出来る。あくまで「大人視線」の話だが。

アリスはまたある人物のところへ向かった。フェンスをがむしゃらに揺らす。
「シフォンさん!聞いて、お願いがあるの!」
金属の喧しい物音に顰め面をしながら振り向く。
「なんだいアリス、そんなに慌てて…何かあったのかい?」
当然、事態も事情さえも全く彼は知らないのだろう。知っていたならこんな呑気にいられるはずがない。だがここで真実を吐露したら厄介なことになるのはシフォンの隣の人物を見れば一目瞭然だ。なので、遠回し且つ簡略に相手を説き伏せなくてはならない。

「今すぐ「主」に会わせて!用事があるの…事は急ぐの…お願い!」
レイチェルやシュトーレンが不思議そうに眺める中でシフォンは返事を渋る。アリスの言う「主」が誰を指しているのか目処はついたものの、だから安易にいい返事を出せないのだ。アリスは挫けない、どんなに堅物な人を相手にしようと絶対に。妙なところで彼女はとても頑固だった。

「どうしても会って、直接お話したいことができたの!すぐに終わるから…見張っててもいいからお願い!」
見張りを条件にシフォンは、とうとう彼女の要望を受け入れることにした。
「やれやれ…。レイチェル、ちょっと席をあけるから頼んだよ。」
若干嫌そうな顔をしたがすぐ笑顔を取り繕って席を立ち上がる。
「はぁ?また盗み食いじゃねえだろうな。」
またかとため息をつい目で追って見送るレイチェルに振り替えることなく返した。
「盗んだ覚えはない。その場で美味しくいただいたさ。」
シフォンはアリスを引き連れ、賑やかに盛り上がる会場を一旦後にした。






|→


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -