「…私は騎士としての最期を遂げ勝利を掴む。お前は化物となりて敗北に堕ちる。雲の上の父上に胸を張ることができる。」
レオナルドも知っていた。だがユーマの父親が亡くなった原因は遠征中にかかった病によるものでお互い全く関係はない。

「ハッ、辛気臭いことをほざきやがって。…親父のやったことなんかどうでもいい。忘れたか?俺は此処に勝ちに来た。」
そしてレオナルドは左手を後ろに引く。誰もが瓦礫ごと相手を木っ端微塵に粉砕してとどめを刺すものだと思っただろう。言動と行動の矛盾になんか気づきもしないで。

「勝手な因縁こじつけて勝手に死のうとするんじゃねえ!!!」
雄叫びに近い声と共に振り下ろされる。地面を裂いた程の破壊力は一点に集中そのする。しかし、その拳が目の前の物を壊すことはなかった。

「………………。」
レオナルドの左上腕部を、細長い氷の結晶に似た青みがかっている透明な刃が貫いていた。貫通した切っ先を鮮血が濡らす。刃…形状からして剣は瓦礫の奥から突き出していた。
「ほほ、ええ時間稼ぎになりましたわ。あんたこそ忘れたん?ウチは騎士ゆうてもその中で異色の「魔法剣技」の使い手どすえ。」
次の瞬間、刃の中を青白い閃光が凄まじい勢いで迸った。
「…貴様…ッ、あ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ああぁぁッ!!!!」
閃光は剣を媒介に、大柄の体躯は宛ら雷にでも打たれかの様に感電によるショックな跳ね上がる。
「魔法剣技!…これは私も初めて見たぞお!!」
興奮のあまりガッツポーズで目を輝かせる司会者。この魔法がありふれた世界でも物理攻撃と融合した技を使える者はそうそういないらしい。観客も衝撃、音に戦慄きながらも視線は吸い込まれている。
「すげぇ…。」
「静電気…どころのレベルじゃないわ。」
シュトーレンとアリスも繰り広げられる接戦に唖然とするのみだ。そりゃそうだ、下敷きをこすって髪の毛が立ったりドアノブに触れるときに走る電流などは比べ物にならない。
「勇馬は雷系統を得意とする。」
いつの間にかフィッソンはすっかり回復して二人の後ろにたっていた。そこにアリスが横から入った。
「角でも貫き剣でも貫き…雷でも貫くのね!」
シュトーレンが感嘆し彼女を褒めた。
「うめェこと言うな!角はないけどな!」
再び二人揃って会場を傍観する。

十数秒続いた電撃は収まり、刺さったままの剣が抜かれる。こんなに長い時間感電していたらそれこそ普通なら死んでいるものだ。レオナルドはまだ膝をつくこともなく負傷を負った腕を庇って立っている。とは言うものの、ダメージは軽いものではない。体が痺れて動けない。
「あんたが放出したんと同じレベルの魔力どす。使用禁止魔法にも触れてへんし魔法剣技は正式な技として認められてはります。」
余裕綽々に顔が自然に笑うユーマの言ったことは正しい。何一つ卑怯な手は使ってないと主張する。だが、魔法などに無知無関心のレオナルドはひたすら左腕の痛みに耐えながら眉間に皺寄せ口角を上げた。
「最高にシビれたぜ。震え上がるほどにな。」
壁にはまっていた斧を引き抜く。目には目を、刃には刃を。強さでも弱さでもこれは公平だ。下ろされる斧にユーマも同じく隠し持っていた剣で応じた。

「大変だあああああ!!!!!」

突如、悲痛な叫び声が会場内にこだました。二人は寸土めでぴったり動きを止め、観客はおろか審判や司会者ですら予期せぬ乱入者に困惑の色を見せる。
「…な、何があったのかしら?」
「俺とお揃いだぞ!ほらアリス、お揃い!」
シュトーレンが嬉々として司会の方へ駆け寄
っていく人物を指差した。同じ耳でも生やしてるのかと思いきや、ピンク色の腰にまで届くぐらいの長い波毛を見てそう感じただけのようだ。平均的な体型、身長の女性。飾りつきの赤い三角帽に白衣。なのに足元はがっちりとした金属のブーツを履いている。
「君は確か安い賃金で一時的に雇われた赤のビショップではないか。どうしたんだい?試合を中断させるほど大変なことが…。」
呑気な司会に対し赤のビショップは一刻を争うほど深刻な様子を露にした。
「安い賃金って…そ、それよりも大変なんですって!収納庫にしまってあったプラムケーキがないんです!一大事ですよ!?」
「なんだってえええええ!!?」
続けざまに司会は身体中から血の気が引いてなくなったような顔面を蒼白に染める。
「他の係員にも聞いてみたんですが心当たりがないと…そもそも私、ずっと収納庫の前にいたんですよ。」
「お前が食べたんじゃないのか!?」
「はぁん!?鍵は違う係員が持っていてそいつは外で掃き掃除していたわよ!」
一悶着起こしている最中審判はいたって冷静だった。なぜならずっと外にいた彼等にはアリバイがある、はずなのだが…。
「シフォン…お前だろ?あのとき、トイレに行ったと見せかけて…。」
疑心暗鬼に横目で睨むレイチェルにシフォンはというと。
「鍵はないし見張りもいる中どうやって浸入できるんだい。僕は手品師じゃないよ。僕が食べたのは選手の差し入れのレアチーズケーキ…。」
「食ってんじゃん…。」
思わぬ自白にレイチェルは聞いたことをまず後悔せざるを得なかった。








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