「……………。」
音沙汰無い。中で一体どのようなことが起こってるのか見当もつかない。だがこれは勝負であり、誰が彼を決着のつくまで助けようものか。
「え…?ど、どうなったんだ…?」
「まさかほんとにやっちまった…のか?」
皆の心に不安は募る一方だ。ユーマの息が絶たれた即ちレオナルドの敗北は同一関係にあたるものの影響としては前者が大きいに決まっている。名の通った剣豪の死、この祭の歴史上に刻まれる黒歴史。後者は自分自身に影響を及ぼすに過ぎない。

最初こそ調子に乗ったものの、誰も「こんな勝ち方」をしてほしいとは思ってないはずだ。

それこそ一人を英雄視しているのだ。

「人を勝手に殺さんといておくれやす。」
瓦礫の奥から今確かに、はっきりとユーマの声がしたのだ。沈みかえる空気を一気に覆す。
「仮にも幻想獣がそないすぐにやられまへんえ。ゆうても、出るんには時間かかります。…何が言いたいかわかるはずや。」
やけに落ち着いた口調にレオナルドは苛立ちを覚える。
「そんだけ口が達者なら出てこれるだろ?首根っこ掴んで引きずり出し…。」
「うちのお父はお前の親父に町中引きずれ回されたどす。」
いつもの丁重な喋り方でも、声は低く感情的な力が籠っている。見えない彼の表情をレオナルドは安易に想像できた。
「あん時の雪辱を晴らす…つまり、お前に勝つこと。騎士として勝てるもんなら尚更本望や。」
何処か意味ありげなユーマの言葉の真意を現時点で理解できている者は誰もいないだろう。但し、勝敗を決める基準を網羅している審判は違った。
「…敗北条件を活かそうとしているな。しかしぎりぎりで敗北を免れる術があることを知らないようだ。」
シフォンが一枚の資料を自分の真下に置く。その紙には「第二、死に至る程度の致命傷を受けたとしてもカウントしている間に生存していれば…。」と長々とした文が記されている。
「つまりどうゆうことだ?」
理解できていない審判は頭に疑問符を浮かべている。シフォンは心底呆れた。
「少しは思考したかい?例えばこれは死ぬだろ〜でもまだ息があるよ〜よしカウントしよう!死んでないけど動かないよ!つまり殺してないからビクトリー!」
「…絶対馬鹿に…してるよなぁ!?ビクトリーってなんだ?」
大人には到底見えぬ無邪気な(作り)笑顔でわざとらしくペンを持った右手を高らかと振り上げる様はふざけているとしかうかがえない。実は馬鹿にしている以前に説明がめんどうなだけだったのだ。
「幼稚な頭のお前に解るようにお話してあげたのに。…しかしまあ、僕は彼が死ぬとは思えないな、お前みたいな馬鹿ではないもの。」
言いたい放題言われるも、もはや何もかも考えるのがめんどうになったレイチェルは悔しそうに黙りこむ(ちなみにこのやり取りは、マイクを伏せていた為向こう側に聞こえるとはなかった)。

「貴様の考えていることはわからん。昔も、今も。」
どうやら二人はつい最近の関係ではないようだ。
「あんたには関係あらへん。…なにぼーっとしとんどすか、はよせなんだら皆待ち草臥れていんでしまいますえ。」
いつしか口調も声も落ち着いていたが今度は反対に気難しそうにレオナルドが唸る。
「言ってることもさっぱりわからねぇ…。」
割りと普通のことを喋っているにも関わらず訛りが強いせいで言葉すら解読出来ない。

しかし、果たして言語を合わせた所で遠回しな彼の言っていることを読み解くことはできたのだろうか。

「…私を嬲り殺せばいいさ。加減をなくした野獣王の前に抗おうと何れ殺られるに決まっている。」
「おう。………はあ?」
訛りは一切なしの素ではない堅苦しく、えらく当て付けのよう。レオナルドも生返事の後しばらくして訝しげに聞き返した。
「頭打っていかれちまったか…。」
「プライドの塊が殺してくれだって…。」
誰しもが疑問、不安、そして同情する者もいる。
「どうした!まさか圧倒的な力を前にはやから戦意喪失いでーっ!」
「じゃかましいんじゃ空気読め!!」
真面目に業務を全うしようと司会のノーガードの後頭部に観客が罵声と共に投げた空の灰皿が見事にヒットして地面に落ちた。







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