束の間和気藹々としているとまた笛の音が鳴った。審判席からだ。
「馬鹿!レイチェル…お前が鳴らしてどうする!司会のラッパが合図になるんだろうが!」
「マジで!!間違えちまった。」
何を間違えたのか、今はレイチェルの誤作動だったようだ。小声でシフォンが咎めると長い耳が真ん中で折り曲がった。本人の代わりに謝っているみたいに。
「えーお待たせいたしました!」
司会からは何の合図もなしに進行された。
「「はあ!?」」
審判席から驚きの声が二人重なったが聞こえてなどいない。試合開始が今の笛で告げられた、此処に居る皆がそう思ったのだろうと思い込んだ司会が勝手に進めたのだ。
「どうなっているのかしら。」
もはやどれがどの役目をアリスも担っているかわからなくなってきた。と同時に「素人の方がよっぽど上手に進められるわ。名前は忘れたけど…確かワカメの人。」と口に出さずに呟いた。
「えらく杜撰だな。まあ、このようなものか。」
フィッソンは腕を組みすっかり高みの見物気分である。シュトーレンは、自分の耳を引っ張ったり下げたりしていた。これは彼の癖だ。
「まもなく決勝戦が始まります!面倒なので私めのキャラもこのままで行く所存で…いやはや失礼。いてっ!」
またも投げられた空き缶が後頭部に見事に当たるが、やはり最初のは作り上げた演技らしく、軽く頭を払っては笑顔で仕切り直す。
「…いよいよこのどでかい相対の国の中の幾数の猛者から最も強い荒くれ者を選ぶこの祭りの大山場!!今この地を踏むにはそれに相応しい資格を持つ…以下略!」
どうやら素の彼はとても面倒臭がりだった。

「それでは大変長らくお待たせ致しました。次なる選手…若くして相対の国東部の豪族の長を務め多くの民衆から圧倒的な支持を得ている「誉れ高き東の跳ね馬」…大曽我勇馬!!!」
観客から再び熱気が湧いた。恐らく、これ程の歓声は今まで聞いたことがなかったぐらい煩くとうとう一人一人が言っている言葉すら聞き分けられない。アリスとシュトーレンは虫の居所がさぞ悪そうに両方の耳をおさえる。
「うるせェな!!鼓膜が破れるかと思っただろ!」
不服を漏らすシュトーレンに対しアリスは聞きなれない名前を繰り返し口に漏らした。
「おお…そがの…おおそがの…ゆうま…オーソガノユーマ…なんて変な名前ですこと。」
西洋の出身である彼女には馴染みのない読み方だった。その東の跳ね馬ことユーマと思われる人物が西の扉から颯爽と入場する。目の当たりにしたアリスは更に独特の印象を受けた。
アリスのいた世界でいう東洋(彼女のイメージに基づくもの)の服装に身を包んでいる。金色の装飾と真新しい深紅のマントは豪族というより貴族のような高貴さを露にしている他、身を守る防具が 上腕甲(いわゆるリアブレイス)のみで右は何故か肘上までを露出している。レオナルドと並んでみると明らかに戦闘には向いてない格好だ。
「へぇ〜…どこかしら肌を晒す装備が流行ってんのか?俺からは考えられねえな。」
頬杖をついては上から物を言うようなレイチェルにシフォンは鼻で笑う。
「私服の上に金具を一部分だけ取り付けたようなもので自慢気になっていた君が言えた台詞かよ。」
「や、やかましいわ…。」
痛いところを指摘されたレイチェルは拗ねて下を向いた。

「えらい久しぶりおすなあ。あんたとこないな風にまた相見える事が出来るなんて、えらい嬉しゅうございます…。」
真ん中付近で足を止めたユーマがこれはまた丁寧にお辞儀までした。鷹揚で礼儀のなった人物をうかがわせた。
「うっせえ、その変なしゃべり方前々からムカつくんだよこの種馬。」
逆に場にあわない態度が癪に障ったのかレオナルドがひどく睨み罵倒し返した。
「おんどれ誰が種馬やボケェ!…おっと、うちとしたことが取り乱してしまいましたわ。」
慌てて咳払いで平静を取り戻しつつもふとした間に素を出してしまい、アリスが妙に謎の安心感を抱いた。
「ユニコーンは処女のみがてなづけることが出来るとされるが種馬となると近寄る処女を手駒にかけたりしたんじゃないか?」
シフォンがわざとマイクを通して冷やかすがユーマは表情を一切変えない。
「ほほ、言うてくれますなあ。残念ながらうちは騎士道一筋で己に磨きをかけることに日々過ごしとったもんやさかい…。」
「つまり童貞か。」
レオナルドのたった一言で彼を言い訳がましくさせ、さすがにユーマもこれには我慢の限界を切った。
「こっちがおとなしゅうしとったら好き放題言いよって…。もう限界どす。」
その最中で遠回しに選手を煽ったシフォンが笑いをひたすら堪えていたのには誰も気づかなかった。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -