「それはそうとジョーカー。あたしはあんたの使い走りじゃないのよ、なのにわざわざ汚れ役を買ってあげたんだから一つぐらい頼みを聞いてよ。」
有栖は机に寄りかかって細目で睨む。ジョーカーは一向に笑顔を絶やさず、残りひとつのシュークリームを口に放り込んでは満足そうに舌鼓を打っている。

「恩着せがましいにも程がある…と言いたいが実に事実。私に出来る限りの事ならば何でも引き受けよう。」
そういいながら机に積まれま白い無地の紙を一枚自分の目の前に置いて羽ペンを右手に取る。紙とペンさえあれば彼は無から有を作るといった事まで出来るのだ。

「…チェシャ猫…あいつを生き返らせてあげて。」
有栖の頼みにジョーカーの顔から笑みが消えた。
「自らの命を一定数以上の目の前で絶った者を甦生することは私は規制をされているのでね…しかし、何故あいつなんだい?君…猫は嫌いだったろう。」
だが一言断られたぐらいではいそうですかと言いたくはない。有栖は彼の前で意地を張った。
「なんでもいいでしょ!…あたしもちゃんとみてんのよ。あいつは死ななくてもいい運命だったのに誰かをかばって死んだわ。あんまりじゃない。」
「……しかしなあ…うーむ…。」
器用にペンを指先を使ってくるくると回しながらしばらく頭を悩ませたジョーカーは、有栖の自然に耐えられず、しまいに大きな溜め息を吐いて降参した。

「…仕方ない。いいだろう。…ただし、条件を付加する。」
すると、何やら紙にさらさらと書き始めた。だが残念にもドイツ語なので有栖にはさっぱり解読不可能だった。
「条件って、なに?」
頼みを飲み込んでくれたことにより多少機嫌がよくなった有栖が文字を凝視しながら聞く。次にジョーカーは魔方陣のような複数の円形を描いていった。


「淘汰の国に一歩でも入った場合、彼の存在を無かったことにする。」
全てを紙の端ギリギリまで書き終えたジョーカーは有栖曰く人ならざるような、それはもうとても不気味でおぞましい恍惚とした笑顔を満面に浮かべ、こう続けた。

「彼の存在理由があやふやになってしまうねえ。実に面白い。」


――――――……

「あー…胸糞悪い夢を見たぜ。」
昼前、宿屋のベッドの上で仰向けになりしかめっ面で天井を睨むレイチェルと、その横で着替えを済ましたシフォンが呑気に新聞を読んでいた。
「随分遅い目覚めだね。朝食も冷めてるよ、だからババロアとオレンジジュースとリンゴをいただいちゃった。」
「…元から冷めてるもんばっかじゃねえか…。」
確かにレイチェルの言う通り、しかも甘いものだけを選んだとのろがまさしく彼らしい。
「早く顔を洗ってきたまえ。かなりうなされてたが、悪夢でも見たのかい?」
と様子を訊ねるシフォンはたいして気にもかけておらず、新聞をたたんでテーブルに置いてから立て掛けてある自前の傘を手に取った。
「あー………うん、悪夢だな。とりあえず、だ。今ものすごくピーターという名前の奴をおもいきりぶん殴りたい。」
「淘汰の国にちょうどいいピーターがいるではないか。あともう少しの辛抱だよ。」
軽くあしらわれたレイチェルも渋々、起き上がって新しい服に着替えた。






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