でも怒りに気がのぼってしまったレイチェルは彼の僅かな感情の変化に気付かなくなっていた。
「いつも違う女を連れてきては毎日俺に隠れて遊ぶ親父が大嫌いだった。」
そんなレイチェルを無視して自ら勝手に動機を話始める。
「ふしだらでろくでもない大人を見て育ったもんだ。親父を反面教師に、こんな奴にはなるもんかってやってきた。」
家族が今の上京とどのような関係があるのか疑問に抱いたが、家族が居ない身分として同情も共感も出来ない分「だからこそ聞いてみたい」という心情が働いた。
「高校に入って好きな女ができた。俺なりに話しかけたりしてみたらさ、そこから結構仲良くなったんだよ。脈ありかと思った矢先、その子が俺じゃない違う奴を好きだって知った。」
「……ただの嫉妬だろ。」
低く、重く、耳に通る声で返す。レイチェルは聞いて呆れた気分になった。そこからまた次なる憤怒が沸き上がる。
「嫉妬…か。でも妬んでたのだろうか、まだ手に入れられると信じていたからな。心は他人に夢中なら、体だけでも俺のものにしようとした結果がこれだ。」
再び視線を落とす。つまり、元々は殺人の予定ではなく強姦目的で侵入したことがうかがえる。散らかった部屋はきっと彼女が必死に抵抗した証だろう。怖じ気づいたか咄嗟の反応で、最悪の結果になってしまったのだ。
「…お前はきっと、俺を捕まえて警察に突き出すんだろ。」
悪びれもしない。青年はわざとらしく両手を広げこちらに微笑み返した。だが残念、外は白いだけの現実味のない空間。部屋の何処にも通信機器らしきものが無いため外部への連絡すら出来ない。
「それができたらな。」
ここでいくら青年が償いの言葉を捧げたとしても、レイチェルが彼を拘束しても自分達以外に誰もいなければ罰を与える人もいないのだ。

確かに許されないことだ。しかし、さすがのレイチェルも会ったばかりのあかの他人が犯した罪を処理することは難しい。他人ならばそこまでする権利もなければ気も起こらない。正義感だけでは解決不可能なこともあるのが悔しくて仕方がなかった。
「所詮は他人つーわけか。」
青年は無力な彼を嘲笑う。同じ赤い目は死んだ魚のように光を失っていた。
「くそ…ッ!…ん?」
歯痒さに苛立つレイチェルは暗い空間に何度か光がちらつくのを見つけた。それの正体はすぐにわかった瞬間、目を真ん丸にひん剥いた。







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