「…ここは…何処だ…?」
レイチェルはたった一人、知らない場所に居た。果てしなく広く、壁も床も真っ白の密室にぽつんとドアが立っていた。淘汰の国には似たような光景がいくつかあるのでそれで驚くことはなかったが、そういう問題ではないようだ。

何故こんなところに居るのかもわからない。それまでの記憶が一切存在せず、言葉にするなら「いつのまにかここに居た。」としか言いようがない。服装も前の黒い燕尾服に身を包んでいるがそれが当たり前に感じ特にこれといった違和感はなかった。
「更に俺以外誰もいないとは…おいおい…どうすりゃいいんだ。」
不思議なことに、いたって頭は冷静だった。それでもこのままでは埒が明かない。何もない空間に居続けても逆に不安が増していくばかりだ。

「おーい…シフォン!フラン!返事してくれー!俺寂しくて死んじゃいそう!」
その不安をまぎらわそうと虚空に向かって声を張り上げて仲間の名前を呼んでみるも、こだまが返ってくるのみ。しばらくして諦めたように眉尻を下げ深いため息とともに肩を落とした。
「……………。」

だが、あるものを見つけて微妙に表情は綻んだ。ひとつの希望、ひとつのドアを見つけたのだ。
「はっはーん…どうせそっちに居るんだろ。俺が本当に寂しくて死ぬか…でも実際そんなこと有り得ねえから一人ぼっちでお前らの名前を泣きべそかきながら叫んだりしているのをドア越しに笑ってんだろ?」
彼にしては珍しく一度に長々と呟く。さすがにおかしいと口元を手で覆った。

「…おーやっべえ、誰かさんの独り言癖が移っちまったか。」
ふと記憶に蘇るはまだ新しい思い出。淘汰の国にうっかり迷いこんだ少女のことだった。
「アイツ元気にやってるといいけどな。世界が違うもんで手紙も出せやしない…さあて。」
そして今置かれた状況に戻る。
「なにはともあれ、俺はこいつを開けるしかなさそうだ。」
レイチェルにはこのドアを開けるより他に行動の選択肢がない。自分をどんな人が、場所が待ち受けているのだろうか。レイチェルは深読みなどせず、躊躇いなしにドアノブに手をかけた。

「扉の向こうは淘汰の国か不思議の国か…なーんてな!」
異様に簡単に開いたドア。期待八割、恐怖二割。どうにかなるという大雑把な理論を胸に向こう側の地を踏んだ。



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