アリスの様子に異変が生じたのに違和感を覚えたのはレイチェルだけではない。
「おーいアリス。パントマイムか?」
シュトーレンの呼び掛けにも反応を示さない。こっちのやり取りに神経を尖らせているからだ。

―…なた…様と…こん…あ、あれ?…―
途中、ノイズが話を邪魔してきた(例えるならテレビの砂嵐みたいな音)。向こうで何があったのだろう。それよりも気になるのは彼女が自分にどんなことを聞いてくるのかということだ。
―まあいいわ。我が主、ジャバウォック様が貴方を嫁として迎えたいと仰っている。詳しい話は後でするけど、返事を聞かせて…―
「(ごめんなさい!)」
アリスは即答で振った。

―………待ってヨ。いくらなんでも早く無い!?―
「(ごっ…ごめんなさい…。)」
同じ言葉を本来の意味で正しく使った。相手の今の気持ちを想像するとふとした罪悪感にも苛まれる。しかも、自らが復活させたよくわからないきっととてつもない凄い大物と、同等の異性とすら縁の無い庶民の娘が間も出逢いもすっ飛ばして永遠の愛など誓えるはずがない。アリスは短い時間に色々なことを考えた。その一部は相手に届いていた。
―…無理もないネ。でもとりあえず会って話だけでもしていただけないかしら?―
声を和らげて丁重に問うが、どうもアリスは心の声と一緒にボディーランゲージが出てしまう。首を横に振った。
「(駄目なの。信じてもらえないと思うけど私は違う世界からやってきたの。だから帰らなくちゃいけない…どれだけ好きになったとしても元の世界で受け入れてくれないもの。)」

「アリス!!」
途端、耳元を破裂音が劈いた。目をぱちくりとさせて我にかえった。正確にはシュトーレンが彼女の名を呼んでから耳のすぐそばでおもいっきり手を叩いただけである。
「はっ…レンさん…私…きゃあ!?」
彼女の様な状態に陥った所を見たことがなく、疲労により幻覚症状を引き起こしているのではないかと本気で心配していたのだった。両肩を掴み激しく揺さぶる。
「疲れてるのかアリス!お前が病院送りされた方がいいんじゃねェのか!聞いてる!?」
疲れてると思っている人に対しての接し方としてはおおいに間違っている。我慢の限界に達したアリスの手が彼を突き飛ばす。
「人聞きの悪いことをおっしゃい!私はなんともないわ!」
会場をずっと眺めていたフィッソンに受け止められたものの、どんな心象を表しているのか知らないが耳は真下に垂れ下がっている。アリスもなんとなく申し訳ない気持ちになってしまった。
「…ちょっと考え事をしていただけよ。ほ、本当に何でもないんだから…。」
苦し紛れの言い訳をする。「そういえばさっきの音の後にテレパシーがぷつんと途絶えたような気がする。」と心だけで呟いた。だがその通り、向こうから音沙汰も無くなり頭も軽くなった。
「そっか、ならよかった。」
異常も無しと安堵に気を落ち着かせたシュトーレンが何気無く彼女の頭を撫でる。
「え?レンさん…やだ、なに?」
男慣れしていないアリスはたったこれだけの他愛ない動作で視線を上げることも出来なくなる。相手はお構いなしだ。
「こうすると落ち着くんだって。いいなお前、耳邪魔じゃないし背ちっさいし。」
「小さいですって…余計なお世話よ!あーもうめちゃくちゃにしないで〜。」
シュトーレンはつい面白がってむきになるアリスの頭を更に執拗に撫で回した。元々癖っ毛のブロンドの髪があちらこちらに跳ねる。
「こらこらお主達…子供か。」
二人のちょうど間の後ろに立ったフィッソンが咎める…と思いきや、シュトーレンの隙だらけのうなじを上から人差し指でなぞった。
「うわあああああ…お、お前の方がガキじゃねーか!!」
全身によだつ鳥肌と軽く身震いをして振り向き際に文句を言った。確かにやっていることはどっちもどっちだ。
「はっはっは。ここにおる者は皆子供だ!」
相変わらず一切気取らず飾り気のない本当の子供のように笑ってのけるものだから、アリスもふと笑みがこぼれる。一人、腑に落ちず頬を膨らませているシュトーレンも場の雰囲気に流された。








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