結果的に勝利を掴んだレオナルドは次の試合、つまり最強を決める戦いである決勝戦までに与えられたわずかな時間の間に消費した体力を回復する必要がある。だが一向にその場を動こうとはせず、腕を組み仁王立ちで相手を待ち構えていた。
「レオナルド氏、決勝戦までにはまだ時間があります。休憩室は…。」
観客ですら飲み物やお菓子を持ち寄って一服しているというのだ。建て前だけでも司会は小走りに駆け寄り背伸びをして耳打ちした。
「それよりだ。俺様の武器があの様だ、新しいのを持ってこい!」
相手の気遣いも煩わしいと感じるのはまだ十分の力をほんの二割しか出していなかったからだ。ファルシオンはただの護身用にしか過ぎない。
「ひいっ!は…はい、かしこまりました!」
司会は飛び上がるように慌てて西の入り口へ向かっていった。

「はー…糖分が欲しい。糖分が足りない。」
他に仕事の無いシフォンが頬杖を突いて退屈そうに紙とにらみ合いをしている。レイチェルは彼に見向きもしない。
「お前最近甘いもん食いすぎじゃねーのか?」
対してシフォンは文句をごねた。
「人は疲れた時に脳が糖分を欲する構造になっているんだよ。なんか無いのかね、牡蠣以外で。」
「俺は疲れた時にはぐっすり寝たい…。」
軽くあしらって大きな欠伸をする。何も持ち合わせていないようだ。気怠げに続けた。
「あーそういや休憩室の隣の部屋にでっかいケーキがあったなあ。」
するとシフォンは澄ました顔ですっと立ち上がった。
「僕、お手洗いに行ってくる。」
彼はそそくさにドアを開けて何処かへ行ってしまった。レイチェルはといえば彼の露骨すぎる態度にも気付かずひたすら山のように積まれた書類に目を通していた。
「レイチェルさん。エヴェリンさんはどうなっちゃうの?」
負傷をおった仲間が心配なアリスは祭の関係者であるレイチェルに安否を確認する。
「どうもこうも、手当てしてもらって後は放置だ。動けるは動けるんだからな。」
勝ち負け命懸けの中を幾度かくぐってきた彼に敗者への慈悲は無い。心優しい少女は気が気でならない。
「そんな…病院に送ってあげないと…。」


―あーあー…聞こえる?―

突然、アリスは頭を鈍器で殴られたような激しい痛みに襲われた。でも、頭痛はほんの数秒程で引いてしまった。
―あれ?魔力が強すぎたかしら?―
しかし耳を通さず脳に直接、聞いたことの無い女性の声が話しかけてくるのが大変気持ち悪い。
「急に何?あなたは誰…?」
不安そうに謎の声の問い掛けた。
―ノンノン!心の声を聞かせるのよ。大人の事情で直接お話は出来ないのデース!―
やたらテンションの高い相手に警戒していいのかよくないのか判断に困った。
「…(なるほど…で、もう一度聞くけれどあなたは誰なの?)」
しばらくの沈黙のあと、今度は声の調子が低く重々しいものになった。

―私はジャバウォックの部下。貴方のおかげで主と共に目を覚ますことが出来た。誠に感謝している。―
「(あ、別にそんなつもりじゃ…。)」
思わず手が動いてしまう。レイチェルは彼女を変な物を見るような目で傍観していた(アリスは彼の視線に気付いていない)。
―お礼も出来なくて申し訳ない…早速用件に入る。貴方に答えてほしいことがあるのだ。―
「(…私に?答えられる範囲ならいいけど…。)」

その頃、会場ではレオナルドの新しい武器が調達され審判席にはお手洗いに行っていたと思われるシフォンも席についていた。
「どうしたんだいレイチェル。アホがまぬけ面しやがって。」
「アホって言うな!…いや、アリスがおかしくなっちまったみたいで…。」
そう言うとレイチェルが一人身振りをするアリスを指差した。シフォンは表情を崩さない。
「おかしいのは君の頭じゃないかね。」
返ってきたのは理不尽極まりない言葉。さすがにレイチェルも憤懣の意を溢した。
「俺は頭がおかしいんじゃねえ!頭が悪いだけだ!!」
「頭が悪いんだ。ふーん、聢と覚えておくよ。」
してやられたレイチェルはぐうの音も出ず黙りしたところで二人の会話は一旦終わった。








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