当の哀れな身代わりのエヴェリンは防具もなければ武器も持っていない。まず、何を基準に彼が代理に選ばれたのか。言い方からして選んだのはシフォンと思われるが、だとしたらせめて戦えるだけの準備をさせてあげるものだ。つまり、無力な一般人を残酷にも放り込んだということになる、これは罪にもあたる行為。

「どうしたことか!さあ…レオナルド氏、どうなさいましょう?」
困惑して対戦相手に意見を求める。チェレンコとやらに賭けた者は憤りと共に諦めも感じていた。これは歴然の差。慈悲か同情かはたまた戦意の喪失か萎えか、 皆が皆これは戦いになるわけがないと思い始める。アリスはこのまま仲間の無事を祈った。フィッソンも顔には冷や汗を浮かべている。

「どうなさいましょう?だと…そんなもん、決まっているだろうが。」
レオナルドは腰に提げている刃の広い長剣を抜く。そして、エヴェリンの目の前に放り投げた。
「……え?」
がらんと音を立てて地面に落ちた剣は、今までの傷を様々な所に刻んでいる。恐る恐るエヴェリンは顔をあげた。が、彼の瞳は
既に睨む行為だけで相手を捕らえていた。
「これがてめぇの武器だ。だから、立て。俺様を相手に逃げることなんざ許さねえ。」

雪か強風に乗って体を打ち付ける。それとは違う寒さに震え上がり、エヴェリンの身の毛がよだった。今行ってる動作が無駄なことはなんとなくわかっていた。だが、彼を含むこの空間にいるうちの誰が「こうなること」を予測していただろうか。
「でもあの…僕…その…。」
悪いことをしてないのに許しを乞うエヴェリンに更なる追い討ちをかけた。
「これは見せ物である以上に俺様には意味のあるものだ。戦いたくないなら何もするな、だが逃げることは許さん!!」
止める声も聞こえる最中、レオナルドは待ちきれないといわんばかりに担いでいた斧を両手に握り勢いよく振りかぶった。

「エヴェリンさ―…!」
アリスの呼ぶ声も虚しく、咄嗟に伸ばした手は空を掴んだ。観客の溜め息、悲痛だと哀れむ声、同情の視線。静かな怒りに満ちた獣の一撃が振り下ろされた。

「わああああああああ!!!!!!」
ひ弱な悲鳴が会場をこだまする。と、同時に聞こえたのは鉄と鉄の激しくぶつかる音だった。目を伏せてしまったアリスが瞼をそっと開けると、最も恐れていた仲間の無惨な姿どころか全く有り得ない光景に茫然自失した。
「…ぐ、うっ…!」
なんと、すかさず剣を掴み取ったエヴェリンはその刃で倍の力はあるだろうレオナルドの攻撃を受け止めていたのだ。しかも、先手をきったレオナルドの手が震えている。どれだけ力をこめてもエヴェリンの刃は動かない。

「嘘だろ…!?あの足のはえたモヤシみたいなのが奴の攻撃を…!」
観客が驚くのは仕方がない。味方であるアリス達でさえいまだに信じられないでいるのだから!
「なにがおこっているんだ!これはまさかの期待のルーキーか!!?」
想定外の事態に司会は興奮して声のトーンとボリュームがあがり表情も活況づく。
「僕は伊達に適当に選んでないよ。」
シフォンが傍らで自慢げに呟いた。レイチェルは紙もとっ散らかしたままテーブなに掌をつき立ち上がっている。
「ま、最後まではもたないだろうけど…ね。彼次第かな。」
気まぐれ審判は頬杖を突いて会場に巻き起こるすべての反応を楽しんでいた。
「チッ…!」
びくともしない刃に一旦レオナルドはエヴェリンから距離を取った。退く際に舌打ちはしたものの、彼の表情はなんとも満足げなことか。
「なんだよ坊主、中々やれんじゃねえか、お?」
一方エヴェリンは剣を手にして立ったものの、生まれたばかりの子馬のように内股の足は震え、腰はすっかり引けていたがレオナルドはたった今ので確信した。彼には戦える力が十分に備わっていると。
「勘弁してください!許してください!えっと…お、怒ってます?今ので怒ってます??」
実際今の彼にプライドなんてものはない。この場から逃れられるならなんでもするぐらいには非常にこの場に留まるのが苦痛であった。
「お前が剣を取るまでは…な。今は大っ満足だ!!」
心底楽しそうなレオナルドはそのまま斧を横に振っては薙ぎ払いにかかった。
「ひいいっ!!」
上擦った悲鳴を上げては今度は後ろに身体を引いてぎりぎり掠れそうな所でかわす。
「オラオラどうした!さっきのをもっかい見せてくれよ!!」
遠慮なく振り回される斧を軽い身のこなしでことごとく避けていくエヴェリン。不安だった観客は早くも意外すぎる展開に徐々に賑わいを取り戻していった。






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